- 子どもたちの賑やかな声に紛れてチャイムの音。ここは教室。
- 男
- 例えば、走ったりすると暑くなったりするよね。
そういう体が暑くなったり寒くなったりする温度のことをなんというでしょうか?
- 少女
- はい!・・・・「たいおん」って言うと思います。
- 男
- 正解。
- 少女
- やった・・・・先生、質問いいですか?
- 男
- どうぞ。
- 少女
- えーと、隣のクラスの鈴木くんは冬の寒い日にも半袖半ズボンで学校にきたりするけど、ふつうは長袖の上着やコートがないと寒いっていう人がほとんどだと思います。
それって・・・・どうしてですか?
- 男
- 鈴木くんはまたちょっと特別だと思うけど、この世の中には暑がりの人と寒がりの人がいるのは何故かと言うと・・・「体温」が関係します。
「体温」は体が生み出す熱と、体の外に逃げるバランスで成り立っています。
暑がりの人は、体の中に熱を沢山つくって逃げにくい人。
逆に、寒がりの人は、熱をあまり体の中に作らずに、熱が逃げやすい人。
- 少女
- じゃあ・・・寒がりの人は、どうやったら暖かくなるんですか?
- 男
- うーん・・・布団に寝ている人の体温を奪う・・・ことかな。
- 少女
- え?
- 男
- はははは、なんでもないです・・・では、次のページをめくって・・・・。
- 子どもたちのざわめく声。
- 男
- みんな静かに・・・・次のページ・・・・・。
- キンコーンカンコーン。チャイムの音。
- 男
- いやあ、今日は焦ったなあ・・・・・・。
- 女
- (笑いながら)いっそのこと、ちゃんと説明してあげれば良かったじゃない。
- 男
- いやいや、それはダメでしょう・・・・・
布団で寝てたら奥さんに襲われるなんて言ったら・・・・・
マズイよ・・・・っていうか、恥ずかしい。
- 女
- 襲うなんて・・・・・そんな言い方するとマズイわね・・・・。
- 男
- 実際、ほんとのことでしょ・・・・・
体温という体温を君から奪われちゃうんだからさ・・・・・・。
- 女
- あら、失礼しちゃうわね・・・・・分けてもらってるのよ、体温を。
- 男
- パジャマの裾から、一方的に手足をひっつけられてるのに?
- 女
- 固いこと言わないの。
- 男
- ええっ、ひどいなあ。
- 女
- で・・・・体温調節って結局、どういう仕組な訳?
- 男
- うーん・・・・暑い時は汗をかいて、寒い時は震えたりするって言うのはわかるだろ?
- 女
- 小学生じゃないんだから、わかるわよ。脳の何処かで温度を感じて、
上手いこと上手い具合に何処かで調整してるって感じでしょ。
- 男
- まあ、ザックリ言うとだいたいそう・・・・・。
脳を守るために視床下部で調整して、体の中心部を一定温度に保ってるって仕組み。
- 女
- へえ・・・・何度ぐらいなの?
- 男
- だいたい、37度って言われてるね・・・・一般的な平熱。
- 女
- えっ・・・・私・・・・・すっごく低いんだけど、平熱。
- 男
- 何度?
- 女
- 35.5度。
- 男
- ウソ。
- 女
- ホント・・・・・・でも、これから少し上がっていくわよ、平熱。
- 男
- どうして?
- 女
- あなたと一緒に過ごして行くんですもの。
足りないとこを補うみたいに、なるんじゃないかなって。
- 男
- え?
- 女
- 私は料理が出来るけど、洗濯もの畳むの苦手じゃない。
- 男
- オレは・・・料理は君ほど出来ないけど、畳むのは、君よりは上手いかな。
- 女
- 言うわね・・・まあ、その通りだけどさ。
なんか、体温調節って・・・・・夫婦みたいな感じかなあって。
- 男
- なるほど・・・・・要を一定に保つってとこは、そうかも。
- 女
- でしょ・・・・・だから、私も毎晩あなたとくっついてれば平熱が、
うまーく設定できちゃうんじゃないかなあって。
- 男
- わ・・・・・冷たい!!
- 女
- ちょっとだけ。
- 男
- ちょっとじゃないよ・・・・・・背中に手なんてひっつけたら、めちゃくちゃ寒いって!
- 女
- ちょっとだけちょっとだけ。
- 男
- 冷たい!助けて!!
- 女、思わず笑い出すと、男も釣られて笑い出す。
- 男
- 今度の週末、電気毛布見に行こうか・・・・。
- 女
- ええっ、やだー。
- 男
- なんで・・・・・。
- また2人笑いながら、夜が更けていく。
- おわり。