- 男
- 徹夜明けにコインランドリーへ向かった。俺の家には洗濯機がない。
- コインランドリーの入口の音。
- 男
- 洗濯物を放り込み、ベンチで座っていると猛烈な睡魔に襲われた。
目が覚めると、開かれた洗濯機の蓋から女の手が伸びている。
- 女
- こんばんは。
- 男
- ・・・こんばんは。
- 女
- そんなところで寝て大丈夫?
- 男
- ああ・・・
- 女
- 徹夜なんてするもんじゃないよ。もう若くないんだから。
- 男
- いや、時間がなくて。
- 女
- そんなにバラすの時間がかかったの?
- 男
- ああ・・・
- 女
- 私、最後までめんどくさかった?
- 男
- ああ・・・
- 女
- ごめんね。めんどくさくて。
- 男
- いや。俺のほうこそすまん。
- 女
- もう遅いよー。
- 男
- おまえ、何してんの?
- 女
- え?何してんだろうね?わかんない。
- 男
- そっか。
- 女
- 自首するの?
- 男
- いや、まだ決めてない。
- 女
- 早く決めたほうがいいよ。
するならする、しないならしないで早く捨てないと。
- 男
- そうだな。どこに捨てられたい?
- 女
- どこでもいいよ。もう自分の身体には興味がないんだ。
- 男
- へぇ・・・あのさ。じゃあもう自分の服にも興味ない?
汚しちゃったからわざわざ洗濯機にかけてんだけど。
気に入ってたじゃん。あの服。
- 女
- あー・・・うん。興味ないかな。
- 男
- そっか・・・
- 女
- ごめんね。気使ってくれて。でもあの染みは取れないと思うよ。
- ピーッと洗濯が完了した音がする。
- 男
- 目が覚めると洗濯はとうの昔に終わっていた。
- コインランドリーの入口の音。
女が入ってくる。
- 女
- いつまで洗濯してんのよ?
- 男
- ・・・ああ。
- 女
- どうしたの?呆けた顔して?
- 男
- いや。寝てたみたい。
- 女
- はぁ?バカじゃないの?
- 男
- ああ・・・
- 女
- セーターの染み取れた?
- 男
- いや、まだ確認してない。
- 女は洗濯機の蓋をあけて、セーターを取り出す。
- 女
- あ。綺麗になってる。よかったねー。
取れなかったら一生私の機嫌、治んなかったと思うよ。
- 男
- あのセーター、大切にしてたもんな。
- 女
- まぁ取れたし、ゆるしてあげるよ。私も言いすぎたと思うし。ごめんね。
- 男
- なぁ?
- 女
- 何?
- 男
- ・・・ついてた染みって何の染み?
- 終わり