- フクロウの声が響く真夜中の山中。釘を打つ音が聞こえる。
- 男
- おいおいおいおい!ほんとにいんのかよ
- 男、ひっそりとヤブの中から林の中をのぞく。
- 男
- うわー・・・。マジでワラ人形に釘打ってるよ。きっつー
- 携帯電話が鳴る。釘を打つ音、ぴたりととまる。
男、あわてて、電話に出る。
- 男
- ばかばか!見つかっちゃうだろ!いたよ!いたんだよ、ほんとに!
おお!自分の携帯チェックしてるわ、助かったー!
- 再び釘を打つ音。
- 男
- ちゃんと白い服来て、頭に火のついたろうそくまで刺してるよ
やべえー、半端ねえよ、これ
- 釘を打つ音、激しくなる。
- 男
- ヒートアップして来たー!聞こえんだろ、木を打つ音が・・・ってバカ!
丑の刻参りのお姉さんだよ!
- 女
- あちちちち!
- 男
- えー!頭のろうそくがおちて髪の毛に引火しちゃってるよ!
- 女
- あつ!あつ!
- 男
- 転げ回ってるよ!やばいやばい!
- 男、ヤブから飛び出して女の頭の火の粉を払う。
- 男
- ちょっと、大丈夫ですか!
- 女
- す、すいません
- 男
- 自分が燃えちゃったら意味ないですよ
- 女
- ほんとですね
- 男
- あぶないなあ
- 女
- あの、見てたんですか?
- 男
- いや、まあ、たまたま通りかかっただけです
- 女
- 私がなにしてるか知ってるんですか?
- 男
- え?あれ、あれでしょ。小鳥のために巣箱打ち付けてるんでしょ
- 女
- はあ
- 男
- こんな真夜中にご苦労様です。それじゃ・・・
- 女
- あの、ほんとに見てないんですよね
- 男
- はい
- 女
- 見られると、やばいんで、私
- 男
- え?
- 女
- 呪い返しにあっちゃうんで
- 男
- なんの話ですか?ぼく、キノコ狩りに来てて・・・
- 女
- あれのどこが小鳥の巣箱なんですか?
- 男
- ああ、フィンランドの方ではワラを使った巣箱があるそうですよ
- 女
- へえ
- 男
- デンマークの一部地方でも行われているそうで・・・
- 携帯が鳴り出す。
- 女
- 携帯、なってますよ
- 男
- あ、はい・・・(携帯に出る)なに?え?写メはどうしたかって?むりむり・・・
罰金?五万?・・・分かったよ・・・(女に)すいません
- 女
- はい
- 男
- 写メとらせてもらっていいですか?
- 女
- え
- 男
- 珍しい巣箱だから
- 女
- はあ
- 男
- 暗いんで、出来ればもう一度、
ろうそくに火をつけてもらえると助かるんですけど
- 女
- いやです
- 男
- そんなこと言わずに、ついでに作者のお姉さんもご一緒に
- 女
- さっき、自分が燃えちゃったら意味ないって言いましたよね
- 男
- 言ったかな?
- 女
- なにが意味ないんですか?
- 男
- フィンランドではね、ワラの巣箱に小鳥を誘い込んで、そのまま燃やして
食うんですよ。カンチョレ・ブッキって言って
フィンランド語で小鳥の丸焼きって・・・
- 女
- 写メ、とっていいですよ
- 男
- ほんとっすか
- 女
- その代わり、私もアナタを撮らせてください
- 女、男の写メを撮る。
- 男
- それ、どうするんですか?
- 女
- プリントするんです
- 男
- して?
- 女
- 新しい巣箱作るんです
- 男
- ワラ製の?
- 女
- ええ
- 男
- 真夜中に?
- 女
- 午前二時に
- 男
- ぼくのために
- 女
- あなたのためにカンチョレ・ブッキつくります
- (了)