- 少年
- ぼくの町には怪獣ちゃんがいます。
怪獣ちゃんは山の麓で電線にぐるぐるまきにされて暮らしているのです。
- 怪獣
- やぁ。少年。
- 少年
- やぁ。怪獣ちゃん。
- 怪獣
- お母さんには、ばれなかったかい。
- 少年
- うん。大丈夫。窓から抜け出してきたから。
- 怪獣
- この前の算数のテスト、うまくいったかい?
- 少年
- いったよ。怪獣ちゃんが教えてくれたおかげ。どこで算数なんて習ったの?
- 怪獣
- 僕のお父さんが教えてくれたんだよ。お父さんは科学者だったから算数が得意だったんだ。
- 少年
- へぇ・・・僕、お父さんいないんだ。僕が生まれた頃に死んじゃったんだって。
- 怪獣
- そうかい。奇遇だな。僕のお父さんも、もう死んでしまったよ。
- 少年
- 怪獣ちゃんには、お母さんはいないの?
- 怪獣
- 科学者のお父さんが、僕のお母さんみたいなもんさ。
- 少年
- ふぅん。
- 怪獣
- 少年。お母さんのことは、大事にしなきゃ駄目だぜ。
- 少年
- うん。
- 怪獣
- もうすぐ母の日だろ?何かプレゼントはするのかい?
- 少年
- んー・・・それが迷ってるんだ。僕、お金ないしさ。
何か買ってあげることもできないし、何かを作ることもできないし。
- 怪獣
- よし。じゃあそこのお花をあげたらどうだい。
- 少年
- うわぁ・・・綺麗な花だね。僕、こんな花、見たことないよ。
- 怪獣
- その花はね。たくさんの毒を何度も何度も浴びて強く逞しく生き延びた花なんだ。
だからそんなに美しいんだよ。
- 少年
- ありがとう。怪獣ちゃん。これをお母さんにあげるとするよ。
- 怪獣
- きっと喜ぶ・・・あ。
- と急に怪獣が痛がり始める。
- 怪獣
- 痛ったぁ・・・・
- 少年
- 大丈夫?あ・・・すごい血が出てるよ。
- 怪獣
- うん。ちょっとね。
- 少年
- 病気なの?
- 怪獣
- ううん。最近、みんな電気を使いすぎるから、締めつけがキツイんだ。
- 少年
- ・・・そうなんだ。
- 怪獣
- ・・・ごめんごめん、余計なこと言ったな。
- 少年
- 僕、みんなに電気を使わないように言ってみるよ。
僕もなるべくゲームしないように気をつける。
- 怪獣
- (笑って)ありがとう。助かるよ。
- 少年
- 次の日、他の街で働いていた別の怪獣が死んだ。
電線から滴り落ちた怪獣の血液は毒だらけだったおかげで、その街はあっという間に死んでしまった。
僕の街の市長は、街が汚染されることを恐れて、怪獣ちゃんの処分を決めた。
次の日の晩、麓に行くともう怪獣ちゃんはいなかった。
僕は母の日が来るたび思い出す。怪獣ちゃんがいたことを。
怪獣ちゃんの座っていた場所には、毎年、あの花が今でも咲く。
- 終わり