男

なあ、走りたくない？

女

なんなの急に？私は歩きでいいけど

男

俺、無性に走りたくなったわ

女

ちょっと、今、デート中だよ

男

分かってるよ。だから我慢してんだよ。けど、もう、限界

女

じゃあ、そこの電信柱まで走りなよ

男

いや、もう、箱根駅伝クラスじゃないと収まりつかない

女

なにいってんの？

男

ほんと、走ってもいい？

女

私はどーなんのよ

男

帰って

女

はあ？

男

こんど、穴埋めするから

女

何ヶ月前から予約したと思ってんの、今日のレストラン

男

全部、全部分かってて言ってるんだよ、俺は

女

勝手なこと言わないでよ

男

そう言うだろうってことも分かってる

女

なにそれ

男

その反応も予測済み

女

ほんともういいよ。私は絶対レストランに行くからね

男

じゃあ、俺は行かない

女

二人分予約したでしょ

男

ううう。足の震えが激しくなって来た・・・

女

やめてよ、こんな道のまんなかで

男

足が軽い！足が軽いよお！

女

モモ上げやめて！

男

しゃしゃしゃい！

女

すすんだ！すすんだよ！

男

ね、走ろう。もう、走ろう

女

いーや！

男

陸上部だったでしょ

女

だったけど

男

おてのものじゃない

女

短距離だったし

男

じゃあ、ほんとに、あの電信柱まで

女

それであきらめてくれる？

男

我慢するから

女

ほんとだよ！

走る音。

女

はい、終了

男

たんない

女

約束は？

男

約束より欲求

女

もー！

男

おい、お前の足もモモ上げ状態になってんぞ

女

え？ほんとだ

男

お前の足も走りたくて仕方がないんだよ

女

そんな・・・

男

走ろう

女

うん。いや！絶対走んない！

男

うんっつた！今！

女

言ってない！

男

言ったよ！

女

言ってませーん！

男

俺よりスピードあがってんよ！

女

坂道のせいよ！

男

ってゆうか、だいぶ二人で走ってしまってるよ

女

静まれ！静まれ！足！

男

うわああ、加速するう！

女

制御不能！

男

したがうんだ！欲求にしたがうんだ！

女

どこいくのよ、この足は？

男

足が行きたい所だよ！

女

レストランは？

男

何億年という生物の歴史がかかってるんだよ、この行為には！

女

なんだか、涙がこぼれて来た！

男

俺はとっくに泣いてるよ！

女

・・走りたい

男

なんだって？

女

私、走りたい！

男

すでに走っている！

女

ほんとだ！

男

人類万歳！

女

生きとし生けるものに乾杯！

男

進化がゴールだ！

（了）