- ごくありふれた家庭のありふれた家。電話の呼び出し音がなり、妻が受話器を取る。
- 妻
- はい、もしもし・・あら、元気?久し振りじゃない。うん、そうそう、こないだのランチ以来?
あ、だんな?今日はまだよ。え?ちゃんとやってるってば。
もう、さすがにお米を洗剤で洗ったりなんてしてないって。学生のときの話しでしょ、それ。
そう、大丈夫。おかげさまでうちは夫婦円満だから。秘訣?ないわよ、別に。
強いて言うなら騙されやすい夫を選んだってことかな?
あのひとったら完璧な妻をもらって僕は本当に幸せ者だなんていうのよ。え?ほんとだってば
- チャイムの音。
- 妻
- あー帰って来たみたい。ごめん、またね、うん。じゃ
- 電話を切り、玄関にバタバタと小走りする妻。
- 妻
- はーい(扉を開ける)おかえりなさい、あなた
- 夫
- ただいま。お、いい匂い。今日はなに?
- 妻
- さんまの塩焼きよ
- 夫
- お、いいね
- 妻
- すぐにお味噌汁あっためるから
- 夫
- あー疲れた
- 夫は食卓の椅子に腰掛ける。
- 妻
- はい、どうぞ
- 夫
- いただきます・・(みそ汁をすする)うっ
- 妻
- あら、どうかなさった?
- 夫
- みそ汁が・・甘い・・
- 妻
- ええそんな(みそ汁をすする)うっ・・あ、ああ、これは、あなたが疲れてると思ってわざと甘くしたのよ。
お砂糖は仕事でたまったストレスを緩和してくれるってテレビで言ってたから
- 夫
- そんな気遣いまでしてくれるなんて。完璧な妻をもらって僕は本当に幸せ者だな
- 妻
- おっほほほほ
- 夫
- あっはははは
- 妻
- あなた、お風呂入られる?
- 夫
- ああ、そうだな
- 夫は風呂場へ。妻は食器を片付ける。
- 妻
- あーやっちゃった。お塩とお砂糖を間違えたのは高校以来ね・・
- 夫
- (お風呂場の戸を開け)ひゃっ!つめ、冷た!
- 妻
- あら、どうかなさった?
- 夫
- 風呂がみ、水!!
- 妻
- あらやだ、追い焚忘れてた。(風呂場に向かって)水風呂は疲労回復にいいんですってー!
- 夫
- なるほど!あとシャンプーの入れ物にリンスが入ってるんだけど?!
- 妻
- それはあなたを笑わせようと思って!
- 夫
- そっか!バスタオルのかわりに雑巾がかかってるのも?
- 妻
- ええ、そう!笑いの絶えない家庭にしようってあなた言ってたじゃない!
- 夫
- さすが、僕の妻だ!
- 妻
- おっほほほほ
- 夫
- あっはははは
- 再び電話の呼び出し音がなり、妻は受話器を取る。
- 妻
- はい、もしもし・・あら、主人がいつもお世話になっております。ええ、少々お待ち下さい。
あなたー、電話よー
- 夫
- ありがとう。はい、もしもし。おお、久し振り。元気してたか
- 妻は夫に子機を渡すとまた台所へと戻る。
- 夫
- ああ、そうそう。おかげさまでうちは夫婦円満だから。秘訣?ないさ、別に。
強いて言うなら騙されやすい夫を演じるってことかな?可愛い妻をもらって僕は本当に幸せ者だよ」
- END