急ぎ足で家に入ると、妻のライザは出航の用意をしていた。
ゲイル
ただ今、ライザ!何処に行くんだ?
ライザ
あらお帰り、ゲイル。明日、行くのでしょう?
ゲイル
…ああ、まあ。
ライザ
勿論私も行くわ。
ゲイル
ライザ。今回の旅は、生死をかけての旅なんだ。
巨大彗星が地球に向っている。
ライザ
ええ。全ての宇宙船での計画は失敗。彗星の重力と波動によって粉砕。
ゲイル
地球にあるのは、今は博物館になってしまった
ホワイト・バードしか宇宙船はないんだ。
ライザ
ホワイト・バードを扱えるのは、元乗組員である、私達だけ。
ゲイル
そうだ。年取った私達だけなんだ。
今回は本当に帰って来れないかもしれない。
ライザ
例え私が生き続けたとして…あなたの居ない世界で生き続けたとして…
私は生きた事になるの?…ゲイル。…わたしも、行くわ。
歳を経ても、人の特質はそう簡単には変わらない。ゲイルは、ライザを止めはしない
過去を振り返ると、いつもそうだったのだ。彼女は、ゲイルにとっても常に必要だった。
ゲイル
君はいつもそうだった。出会ったときからそうだった。
本当に、君は、本当に。
ライザ
バカね?
ゲイル
いや。本当に愛おしいよ、ライザ。
ハハハ。あの日の事を思い出したよ。地球で生めるのに、
宇宙船ホワイト・バードで絶対に子供を生むなんて言うから。
ドクターのロスがお産を手伝っている。
ロス
さあしっかり!ライザ!
ライザ
ああーーー!痛いわ!ああああーー!
ロス
しっかり!ライザ、あなたが決めたのでしょう、ここで生むって!
ライザ
ええ!でも…痛いーーー!きゃあぁぁーーー!
ロス
はいはい。さあ、もうすぐよ。スースーハー!スースーハー!
ライザ
スーハーハースー!スーハーハースー!
ロス
違う!スースーハー!よ!
ライザ
スーハーハースー!
ロス
違う!スースーハー!
ライザ
スースースーハー!苦しい!
そうこうしているうちに赤ちゃんが生まれる
赤ちゃん
オギャー、オギャー、オギャー!
ロス
あっ!生まれた。
女の子よ。
ライザ
じゃあ、名前はライル。
ロス
いい名前ね。サイモン・ライル。
ほら。ここは私達が命を共にしてきた宇宙船の中よ。
あなたのお父さんもお母さんも、ここで頑張って来たのよー。
現在のゲイルとライザに戻る。
ゲイル
ハハハ
…ライルは、地球に置いて行こう。
ライザ
ええ、そうね。(ライルが帰って来る)あっ、ライル!
ライル
あら、お父様、帰ってらっしゃったのね。
ゲイル
ああ、ただいま。
ライル
お母様、またホワイト・バードに乗込むつもり?そんなに沢山荷物をまとめて!フフ。
急に娘を抱き寄せるライザ
ライザ
大きくなったわね。
ライル
お母様、もう私は子供じゃないのよ。
ライザ
ええ、ええ。
ライル
お父様、今日のお母様は変よ。
ゲイル
ライル。すべての宇宙船は彗星に潰されてしまった。
ライル
まさか。
なにも2人が行かなくても…。
ゲイル
いや。ホワイト・バードの艦長は私だ。
そして、ホワイト・バードの分析班はお前のお母さん、ライザしかいないんだよ。
私達は行かなくてはならない。人類のためにも。
ライザ
ライル、愛おしい娘。ライル、分かってほしいの。
ライル
…私は、地球で何をすればいい?
ライザ
いつまでも、いつまでも、みんなが平穏に暮らせるようにと祈ってくれる?
ライル
ええ。
ゲイル
ライル。愛おしい娘。
ライザ
ライル。私の娘。あなたはこれからあなたの人生を生きていきなさい。
いいわね。愛おしい娘。
ライル
…はい。お父様、お母様。
ゆっくりとライルからはなれ、姿勢を正すゲイル艦長とライザ。
ゲイル
行こう、ライザ。
ライザ
はい、ゲイル…ゲイル艦長。
おしまい