- とある幼稚園で。
玄関には七夕の笹が飾られてあり、
子ども達が願い事を書いた短冊を先生らしき女性が
順番に吊るしている。遊びながら『たなばたさま』を歌う子ども達の歌声が聞こえてくる。
- 園長
- もうこんな時期ですか
- 先生
- 園長先生。一年、早いですよね。ついこないだ笹を飾ったばかりな気がします
- 園長
- どれどれ、今年の子ども達の願い事は・・『サッカー選手になりたい。みっちゃん』
・・これはこれは元気な女の子だ
- 先生
- こんなのもありますよ。『ピアノの先生になりたい。ふっ君』ですって
- 園長
- 昔とまるで逆だ。時代ですね
- 先生
- あ。トモ君ったら、また
- 園長
- どうしました?
- 先生
- ちょっとみてくださいよ、これ
- 園長
- なになに?『世界征服』・・あははははっ
- 先生
- 笑い事じゃないですよ。トモ君、ふざけてばっかりなんですから
- 園長
- いいじゃありませんか。可愛いもんです。これくらいの年の子はね、
そんなもんでちょうどいいんですよ
- 先生
- ・・園長先生も、もしかして『世界征服』って書いたクチですか?
- 園長
- ああ・・そうですね。懐かしいな。私が子どもの頃は・・
- 時はさかのぼり、園長先生の幼少時代へ。
突然、謎の飛行物体が空からピロリロと音をたて、とある幼稚園に降り立つ。
扉がブォーンと開く音。母親らしき宇宙人が子どもを連れ地上に降りる。
- 母親
- 心の準備はできましたか
- 子ども
- はい、母さん
- 母親
- まだ幼いあなたを、こんな野蛮な星にひとり置いていかねばならないなんて
- 子ども
- 大丈夫だよ。僕、きっと立派な◯×☆△星人(発音不可能なノイズ)として
成長してみせます
- 母親
- これも、あなたが一人前になる為の我が星のしきたりなのです。
ああ、私はあなたを誇りに思うわ
- 子ども
- きっとこの星を滅ぼして、母さんのもとに戻ります
- 母親
- 約束ですよ
- 子ども
- はい・・ねぇ母さん、あれはなんですか?(玄関の笹に気づく)
- 母親
- ああ、あれは<短冊>といって、この時期になると願い事を書いて
<笹>という植物に吊るすこの土地ならではの風習ですよ
- 子ども
- 願い事を・・僕の願いも書いて吊るしていいですか
- 母親
- いい心がけです。敵を欺くためにはまず敵の風習を知らねばなりません。
さぁ、あなたの願い事をここへ・・
- 子ども
- よし、僕の願いは・・
- 先生
- 園長先生?園長先生!
- 園長
- ・・おっと失敬。いや、ついあの頃が懐かしくなってね・・
あ、短冊まだ余ってますか、先生。どれ、私も久しぶりに書こうかな
- 先生
- はいどうぞ。『世界征服』はやめてくださいね
- 園長
- まさか、書きませんよ、そんなの
- 先生
- じゃあ・・分かった。園長先生のことですから『世界平和』ですね
- 園長
- いいえ
- 先生
- それじゃあ、なにを
- 園長
- 書けました。はい、これも吊るしといてください
- 先生
- え・・これって
- 園長
- 今の私にはそれで充分ってことで
- 先生
- いいんですか、これで
- 園長
- いいんです。というわけで私はその願いを叶えにちょっとコンビニ行ってきます
- 先生
- え、あ、はい
- 園長先生は、笹の横を通り抜け幼稚園の門の外へと消えていく。
- 先生
- まぁ、園長先生らしいわね。『世界征服』の横にでも吊るしとこうかしら。
『アイス食べたい』
- END