- 男
- いきなりですが、僕の大事な人を・・・(声を潜めて)こっそり紹介します・・・・。
- 女
- もう駄目だ・・・・全然、思い浮かばない・・・・・あー、どうしよう締切なのに!
- 男
- いかにも分かりやすいシチュエーションで、察しのいい方はお分かりの通り。
彼女は作家なんです・・・・・今・・・ラジオドラマの台本を執筆中です。
- 女
- あー、駄目だ・・・・。
- 男
- じゃあ、ちょっと一息入れてみたら?
- 女
- もう、こうなったら飲んじゃうか!
- 男
- ええっ・・・・。
- 缶ビールをプシュッと開ける音。
ゴクゴクと飲み干してプハーと息をつく。
- 女
- やっぱり仕事終わりのビールは最高よねえ。
- 男
- いや・・・全然、仕事してないよね。
- 女
- 気分転換にゲームでもしようかな・・・・ちょっとだけ。
- 携帯を立ちあげて、ゲームを開始する。
ピコピコと戦闘シーンの様なメロディが流れる。
- 男
- ああ・・・・こうなったら、駄目だ・・・・。
- 女
- あー、惜しい・・・・もうちょっとで、ミッションクリア出来ると思ったのに!!
- 男
- いや・・・その前に君のミッション遂行しようよ。
そんなことしてる場合じゃないでしょう・・・・聞いてんの?
そっか・・・・聞こえないんだった・・・・。
実は彼女には、僕の姿は見えないし声も届きません・・・本気出さなければ。
何故なら、僕は彼女の書く物語の主人公なんです。
- 女
- こうなったら・・・・レベルアップして、もう一回・・・・・。
- 男
- (遮るように)ちょっと、待って!
- 女
- あれ・・・・・何か声が聞こえたような、空耳?
- 男
- 空耳じゃないよ。
- 女
- また・・・テレビもラジオもつけてないのに、幽霊とか?なんだか、怖い!
- 男
- 失敬だな・・・主人公に向かって。
- 女
- ・・・・えっ。
- 男
- 僕は、君の書いてる物語の主人公。
- 女
- えっ・・・・・どうりでラジオドラマの俳優さんと、同じ声だと思った・・・。
- 男
- いい声でしょ。
- 女
- うん・・・・いや、ちょっと待って・・・・ひょっとして、酔っぱらってるかな、私。
それとも・・・現実逃避しちゃってるのかな、やばいかな私。
- 男
- やばいっちゃ、やばいね・・・・原稿の締め切り、明日でしょ。
- 女
- だって・・・書けないんだもん。
- 男
- 困るよ・・・ずっと恋愛に縁がなかった僕が、一目惚れしたコンビニ王女を、やっとデートに誘ったって話だったでしょ、前回!
- 女
- ああ、コンビニのバイトの女の子ね・・・・そうだった。
- 男
- もう、なんなのやる気出してよ・・・・。
- 女
- だって・・・・・久しく恋愛なんてしてないし、デートなんて・・・。
- 男
- ああ・・・・それでか。
- 女
- 何?
- 男
- 最近、だらだら導入部が長くて時間稼ぎしちゃってる感じしてたんだよね。
で、この間もプロデューサーさんが・・・・上手くカットしてくれたおかげで尺に収まって助かったじゃない。
- 女
- なんで、知ってんの!?
- 男
- だって・・・・君が僕を創りだしたんだから。
- 女
- ですよね・・・・・。
- 男
- じゃあ、・・・・君の創作意欲をかきたてるために、デートに行きませんか?
- 女
- えっ・・・・どうやって、あなたと?
- 男
- 勿論、物語の世界でだけど。
- 女
- 結局南極、私の想像の世界でしょ・・・・上手くいくかなあ。
- 男
- その代わり、思いっきりオシャレして行ったことない様なお店で買い物したり食事してみたり出来るじゃない・・・現実逃避からの現実逃避!
- 女
- なるほど・・・想像だもんね、着た事ない様な服とか着てみたいかも。
- 男
- この間、君がショップで眺めてたワンピースとか、どう?きっと似合うよ。
- 女
- そうかなあ・・・・でも、ああいうのは、いかにも主人公みたいな子の方が。
- 男
- 大丈夫・・・・君は主人公だもの。
- 女
- えっ?
- 男
- だって、君の人生では君が主人公だろ・・・・想像だけじゃなくって、
現実の世界だって。
- 女
- ありがとう・・それにしても、上手いこと言う。
- 男
- だって、僕も主人公だし。
- 女
- そっか。
- 2人、思わず笑う。
- 男
- それでは、これから僕たち2人の物語のために、どこに行こうか。
- 女
- うーんとね・・・・。
- 2人、話しながらこれからの計画を練り始める。
- 終わり。