- NA
- 私は階段です。今日も一人、私を上ろうとする人が現れました。
- 階段の前に宇宙人がやってくる。
- 宇宙人
- こんばんは。
- 階段
- こんばんは。
- 宇宙人
- 君は誰?
- 階段
- 私は階段です。あなたは?
- 宇宙人
- 僕は宇宙人。実は泊まるところを探しているんだ。
- 階段
- そうですか。私を上ったところに部屋があります。今は誰も使っていません。ベッドもそのままです。多少かび臭いでしょうが、あなたさえよければ。
- 宇宙人
- そうか。悪いね。じゃあそうさせてもらうことにするよ。
- 階段
- 随分長いこと階段をやってきましたが、宇宙人の方に会うのは初めてです。
地球に何か用ですか?
- 宇宙人
- 別に用はないよ。家族と喧嘩してね。ただの家出だよ。
- 階段
- 宇宙人も家出をするんですね。
- 宇宙人
- うん。でも家出をしたのはいいものの、さっそく後悔してるんだ。
どうしようもなく寂しい。
- 階段
- 家出というのは、そういうものです。
ここに泊まらずに宇宙に帰ったらいかがですか?
- 宇宙人
- そうはいかないよ。僕にだって意地がある。
それに僕は今、どうしようもなく君を上ってみたいんだ。
- 階段
- おかしなことを言いますね。ただの階段ですよ。
- 宇宙人
- 実のところ、僕はこれまでの人生で階段を上ったことがないんだよ。
- 階段
- まさか。人は階段を上らないと生きてはいけません。
世界中どこにでも階段はあるんですから。
- 宇宙人
- それは地球の話だろ。
- 階段
- 宇宙に階段はないのですか。
- 宇宙人
- それがないんだ。
僕たち宇宙人は、階段を上らなくても空を飛ぶことができるから。
- 階段
- なるほど。確かにそれなら階段は必要ありませんね。
- 宇宙人
- ねぇ。どうやって君を上ればいい?
- 階段
- (笑って)そんなことを言われたのは初めてですよ。
- 宇宙人
- 教えてくれないか。
- 階段
- 簡単です。あなたのその足で、右、左、右、左、と足を前に踏み出すんです。歩くのと一緒ですよ。歩けば、自然に身体が上がっていきます。
さすがに宇宙人のあなたでも歩くことはできるでしょ。
- 宇宙人
- なるほど。地球人はとても賢い。
ねぇ。君。部屋を貸してもらう代わりに何かお礼がしたいんだけれど。
- 階段
- お礼なんてそんな。ただ私を上ってくれる、それだけで十分です・・・
実はもう誰も私を上ってくれないと思っておりました。
この家は明日、取り壊されるんです。
- 宇宙人
- ・・・そうか。だからこの家には誰もいないんだね。
ねぇ。君、もし願いが叶うなら、最後に誰に上ってもらいたい?想像して。
- 階段
- ・・・それは。
- NA
- 彼はそういうと、いつの間にかあの人になっていました。
この家が出来て以来、あの部屋でずっと暮らしていたあの人に。
懐かしい足音が私をカツカツ響かせます。
私は自分がこの家の階段であったことに、ひたすら感謝しました。
- あの人
- おやすみ。
- 階段
- おやすみなさい。
- 終わり