- ナレく
- とあるスーパーにバナナが一つ入荷しました。
- バナナの中身く
- ここはどこだろう。バナナの皮君。
- バナナの皮く
- 日本のスーパーさ。バナナの中身君。
- バナナの中身く
- とても寒いよ。バナナの皮君。
- バナナの皮く
- 陳列台のクーラーがとても効いているんだよ。バナナの中身君。
- バナナの中身く
- ブラジルに帰りたい。
- バナナの皮く
- もう無理だよ。僕らは日本人に食べられるんだ。別にいいじゃないか。ブラジル人に食べられようが日本人に食べられようが、
君は優秀なビタミンEを持ったバナナの中身として、
きっと天寿を全うできるんだから。
- バナナの中身く
- 俺はブラジル生まれのブラジル育ちだよ。バナナの皮君。
ひ弱な日本人に食われるなんて真っ平ごめんだ・・・
きっと、きっと俺は寿司にされる。
- バナナの皮く
- バナナの寿司なんてこの世にはないさ。
- バナナの中身く
- 日本人はね、創作寿司、とかいって、
試しになんでもかんでもシャリの上に載せるんだよ。
きっとチョコレートソースをかけられるんだ。
- バナナの皮く
- 君はナーバスすぎる。
- ナレく
- すると男がやってきて、一本のバナナを持ち上げました。
男はじぃっとバナナを見てます。
- バナナの中身く
- いったい何が起きている?
俺はなんたってバナナの中身だから外のことが見えないんだ。
不安定だよ。バナナの皮君。不安定な感じがする。
- バナナの皮く
- 日本人に見つめられている。どうやら僕らを買う気らしい。
- ナレく
- 男はバナナを買いました。
- バナナの中身く
- もうおしまいだ。
- ナレく
- 男はヘリコプターの操縦士でした。 なかなかに体力のいる仕事なので、
操縦士にとって、バナナは必要不可欠な果物です。
- ヘリコプターの旋回音が聞こえてくる。
- バナナの皮く
- もうすぐお別れだね。バナナの中身君。
- バナナの中身く
- 俺は、ずっと、ずっと夢見ていたんだよ。誰かが君をむく瞬間、
俺の視界のその先に、ブラジルの太陽があることを。
- バナナの皮く
- ブラジルの太陽も、日本の太陽も、どこも同じさ。
- ナレく
- 操縦士がバナナを鞄から取り出しました。
そしてゆっくりと、バナナの皮をむきました。
- バナナの中身く
- さようなら。バナナの皮君。今まで俺を守ってくれてありがとう。
- バナナの皮く
- さようなら。バナナの中身君。今まで君を守れて幸せだった。
- ナレく
- 操縦士はバナナを食べ終えると、
ヘリコプターの窓からバナナの皮を投げ捨てました。
- バナナの皮が落ちていく音。
- ナレく
- 太陽が、落下していくバナナの皮を照らしています。
バナナの皮は思い出していました。相棒との栄光の日々を。
- バナナの皮く
- あれはきっと、ブラジルの太陽さ。
- 終わり