壮大な音楽。
ナレ
時は天正一〇年、魔王織田信長は、天下布武を旗印に、戦国の世を終結させようとしていた。配下の武将たちが相争って諸国に攻め入るなか、信長は、ここ本能寺にひっそりと陣を張ったのであった・・・。
どこかで野犬の遠吠え。廊下をきしませる足音。
信長
ふん、ふん、ふん、ふーん(上機嫌な鼻歌)
スパーンと襖を開ける音。
眠っていた森蘭丸、慌てて布団より起き上がる。
蘭丸
これは、大殿。いかがなされましたか?
信長
らんまる
蘭丸
は!
信長
らーんまる
蘭丸
はは!
信長
らーんちゃん
蘭丸
ははー!
信長
テ アモ ムーチョ
蘭丸
は?
信長
バテレンから教えてもらったエスパニア語じゃ
蘭丸
して、なんとおおせに・・・?
信長
そ、な、た、が、す、き、じゃ
蘭丸
そ、そのような、畏れ多い・・・
信長
畏れ多くも畏れ少なくもない!
なにゆえ、このような小勢で陣を張ったと思う?
蘭丸
軍略のことなど、手前には・・・
信長
違う!二人きりになりたかったのじゃ!
蘭丸
信長様ご乱しーーーん!
信長
(遮って)黙って!静かにして!みんな来ちゃうでしょ!
なんか、屈強な男たちが!
蘭丸
しかし、手前は、男でありますれば・・・
信長
考えふるっ!なにそれ、鎌倉?君は鎌倉時代の人?
イイクニ作ろう鎌倉幕府?国を作るのはワシの仕事じゃああああ!
蘭丸
申し訳ござりませぬ!
信長
はははは。よいよい、愛い奴じゃ。ちこう寄れ
蘭丸
し、しかし・・・!
信長
このヒゲ、どう?
蘭丸
見目、麗しく存じます
信長
だしょー。ほれ、チクチクチク
蘭丸
お、お戯れを
信長
らんちゃんほっぺたスベスベー
戦の声があがり、矢が飛び交う音。
信長
何事じゃ!
蘭丸
は!
襖をスパーン。
蘭丸
あの旗印は・・・
信長
いかがいたした!何奴の襲撃じゃ!
蘭丸
明智光秀様、御謀反でござりまする!
信長
蘭丸
は?
信長
しまった
蘭丸
しまったとは?
信長
みっちゃんにバレた・・・
蘭丸
大殿様、まさか・・・
信長
しくったなあ。あいつ、男のくせに嫉妬深くてさあ、
しかも、勘がするどくってよお
蘭丸
そんな、二股・・・
信長
まだかけておらん!
蘭丸
好きになりかけてたのに・・・
信長
ワシはもう、すでに好きだよ!みっちゃんより断然らんちゃんだよ!
蘭丸
大殿様!
信長
そんなのやだ!
蘭丸
はい?
信長
のっくんって呼んで!
蘭丸
ののののの
信長
せーの!
蘭丸
のっくん!
信長
らんちゃん!
ひしと抱き合う二人。
信長
熱い!熱いぞ!体中の血潮が燃えたぎっておるぞぉぉぉぉ!
蘭丸
はいー!
炎が燃え上がる音。
信長・蘭丸
アチ、アチ、アチ、チチチチチチ!
蘭丸
こんなところにまで火の手が!光秀様の嫉妬の炎、恐るべし・・・
信長
わはははは!みっちゃんめ、やりよるわ!
蘭丸
のっくん!逃げて!
信長
取り乱すな!もはや、これまでじゃ!
らんちゃんとの恋を枕に討ち死にしてみせようぞ!
蘭丸
のっくん、カッコいい!
信長
お前もカワイイ!
蘭丸
やん!
信長
蘭丸、刀をもて!
蘭丸
は!ここに!
信長
にんげん五十年、やっと出会えたほんとの恋だもの!
蘭丸
地獄の底まで御供つかまつりまする!
戦の音、盛り上がる。
ナレ
かくして、魔王織田信長は本能寺で討たれたのであった。
しかし、明智光秀もまた、信長の元カレ、
羽柴秀吉により攻め滅ぼされることとなるのである・・・。
次週「光秀三日天下の愛」、ご期待ください。
壮大な音楽。ホラ貝の音鳴り響く。
(了)