- 新聞紙を広げてる音。
バタバタと足音が聞こえる。
- 男
- ちーちゃん、おはよう・・・・朝から元気いっぱい・・・・。
- 少女
- (遮るように)ね、今日は何日!?
- 男
- えーと(新聞の日付を確認して)9日の土曜日だよ。
- 少女
- (しょんぼりしながら)・・・・・そうかあ。
- 男
- ちーちゃん・・・・・どうしたの?
- 少女
- どうもしないもん・・・・・。
- 男
- さては・・・・日曜と勘違いしちゃったんだな。
ちーちゃんが好きな魔法少女のアニメやってるし。
慌てちゃって、ちーちゃんらしいなあ。
- 少女
- ちがうもん・・・・それも好きだけど・・・・そうじゃないもん。
- 男
- え、違うの・・・・・?
- 少女
- 早く・・・・・14ニチにならないかなあ・・・・。
- 男
- え?
- 女
- 2人共、朝ごはん、出来たわよー。
- 男・少女
- はーい。
- ガチャガチャと食器類の音が聞こえてくる、食事の風景。
- 男
- 「14ニチ・・・・・14日だよな・・・・・何かあったっけ?
休みでもない平日だから、遊びに連れてく約束もしてないし・・・・・・なんだろ?
14日・・・・・14日・・・・・国際結婚の日、数学の日、円周率の日?
πが3.14だから・・・・・なるほどねって・・・・・3月14日!?」
- 男
- ちーちゃん・・・・分かったぞ!ホワイトデーでしょ?
クッキー、キャンディ、チョコいや・・・・・ここは正統派にマシュマロかな。
- 少女
- ・・・・・・・・・・。
- 男
- あれ・・・・・あんまり嬉しそうじゃないな・・・・違うのがいいのかな?
- 少女
- そんなことないよ・・・・ちょっと、違うの。
- 少女、バタバタと違う部屋に行ってしまう。
- 男
- (困って)えーと・・・。
- 女
- (笑いながら)残念ながら、ちーちゃんが待ってるホワイトデーのお返しは、また別なのよ。
- 男
- え、分かるの!?
- ピンポーンとチャイムの音。
- 女
- はあい。
- 男
- 何なんだろう・・・・何が違うのかなあ。
- 女
- ちーちゃん、山内くんが来てくれたわよ。
- 少女
- わー!
- 慌ててバタバタと走っていく音とドアがバタンと閉じる音。
- 男
- 山内くんって?
- 女
- お隣さんの男の子。
- 男
- ああ、メガネかけた賢そうな子。
いつもすれ違ったら丁寧に挨拶してくれるいい子だよね。
- 女
- そう・・・・彼が、ちーちゃんが待ってる王子様よ。
- 男
- お、王子様・・・・・・そ、そんなの・・・・・は、早いよ!
- 女
- あら、恋に年齢は関係ないじゃない・・・・・でも、残念よねえ。
- 男
- え・・・・・残念って?
- ガチャリとドアが開く音。
少女、泣きながら戻ってくる。
- 女
- わーん・・・・山内くんが・・・・山内くんが!
- 男
- え・・・・・どうしたの?
- 少女
- 山内くん、今日で引っ越しちゃうんだって・・・・・だから、早いけどってお返しもらったの・・・でも、やだあ!
- 男
- そうなんだ・・・・・・ほんと、いい子だなあ山内くん。
- 女
- ちーちゃん泣かないで、そんなお顔でサヨナラしたら山内くんも悲しくなっちゃうよ?
ほら、涙、拭いて・・・・・「またね」って手を振ってあげなきゃ。
- 女、ガラリとベランダの窓を開ける。
- 少女
- うん・・・・山内くーん、また会おうね!元気でねー!バイバーイ、またね!
- 車のエンジンの音、やがて行ってしまう。
- 少女
- 行っちゃった・・・・・。
- 男
- ちーちゃん、偉いぞ・・・・・頑張ったから、今日は・・・・。
- 女
- (遮るように)すき焼きよ!
- 少女
- ほんと・・・・・やったー!
- 男
- もう、まいったなあ。
- 3人、笑う。
- 終わり。