- ちいさな階段だけがポツンとそこにある。
階段のうえには女性が立っている。そこへ一人の自信に満ちた男性がやってくる。
- 女
- ようこそ『大人の階段』へ。この階段をあがればあなたも・・・
なんだ、またあなたですか
- 男
- どうもこんにちは
- 女
- いい加減、諦めた方がよくないですか?
- 男
- 今日の僕はね、ひと味違うんです。必ずやこの階段をのぼってみせますよ
- 女
- あなたってひとは全然懲りないですね
- 男
- さぁ、どうぞ。いつでもはじめてください
- 女
- まぁいいでしょう。では、気を取り直して・・レッツ、チャレンジ『大人の階段』!
- クイズ番組のような音楽が始まる。
- 女
- 第一問・はじめてのキスはなんの味?
- 男
- おっといきなりその質問ですか?答えはね・・甘酸っぱいレモン味・・
- 女
- ブッブー!はじめてのキスはタイミングを計りすぎたうえに結局焦って味どころか、なにがなんだかよく分からないまま終わり、おまけにそんな自分をフォローしようと、しょうもないことばかりを口走ってしまう、が正解です
- 男
- まぁまぁ最後まで聞いてくださいよ。
甘酸っぱいレモン味のガムを噛んで準備万端に整えるもそれを捨てるタイミングをすっかり逃し、そのままキスをした結果、喉にガムがこびりつき危うく窒息しかける、です
- 女
- ・・あなた、どうやら本当に今日はひと味違いますね
- 男
- でしょ
- 女
- 確かに今の回答は、大人がどうでもいいときにふと思い出す苦いトラウマ的な経験を汲んだ内容でした。いいでしょう。正解
- 派手なファンファーレがなり響き、第一問目の正解が告げられる。
- 男
- さぁ、どんどんどうぞ
- 女
- 第二問・部下はビール、上司は熱燗。さぁあなたはなにを飲む?
- 男
- 熱燗!といいたいところだがちょっと待ってくださいよ。答えは・・ウーロン茶
- 女
- そのこころは?
- 男
- 酒は飲まずに帰りはドライバー。上司を丁重に送りとどけたのち、部下もアパートに送ってやってからやっと家路につき、冷蔵庫の缶ビールをプシュっとあける
- 女
- 上司には売れるときに恩を売り、部下と喋る時間もつくって頼れる先輩ぶりをアピール!
大人のあざとい計算が冴えわたる答えです。正解
- 男
- やった!
- ファンファーレ。
- 女
- では参りますよ。いいですか?次がラストステージです
- 男
- ここまで進んだのは初めてです
- 女
- 第三問
- 男
- さぁこい!
- 女
- この階段のさきにはなにがある?
- 男
- へ?
- 女
- だから、この階段のさきにはなにがある?
- 男
- ちょ、ちょっと待ってくださいよ!それはひどい問題だ!
そんなの、のぼってみなきゃわからないでしょーが!
- 女
- 正解
- ファンファーレ。
- 男
- せいかい・・?
- 女
- ええ、正解です。のぼってみなきゃ分からない。
思惑や計算や培って来たすべてをあっさりと踏みにじり、大概のことは実際に動いたタイミングやそのときの運で決まっていく、それを知るのが大人です
- 男
- はぁ。なんだか身もふたもないですね。大人って
- 女
- で?あなたは権利を勝ち取りました。『大人の階段』のぼってみますか?
- 男
- あ、ええ!僕、憧れに憧れたこの『大人の階段』をついにのぼれるんですね!
- 女
- どうぞ
- 男
- はい!
- 男は階段をついにのぼりきる。しかし、なにも起きない。
- 男
- ・・あの
- 女
- なんでしょう?
- 男
- なにも、変わらないんですが
- 女
- ええ、そうですね。まだまだ大人になり切れない自分に気づく、それが大人ですから
- END