山間にある廃村。男(山彦【やまひこ】)、村を眺めて
歩き出す山彦
山彦
僕の名前は、工藤山彦。小学校を卒業するまで、山に囲まれた村で暮らしていた。静かに野原へ変わりゆく、田畑にのびる畦道と、山の中ひとり走って歩いて隣の隣の村にある、小学校まで通う毎日。両親は居ない。じいちゃんとばあちゃんがずっと僕の面倒を見てくれた。僕は村で唯一の子供だった。小学校を卒業すると僕は村を出て、全寮制の中学に入学し、そのままずっと街に住むようになり、じいちゃんとばあちゃんも老人ホームに移り住み、村には帰らず大人になって、今。先日、興味本位にネットで村を検索してみたら、廃村認定されていた。…行こうと思った。村を見に。そして…山響子に会いに
足を止め
山彦
やっほー!
山響子(声は山彦そのもの)が返って来る
山響子
…やっほー!
山彦
やっほー!
山響子
…やっほー!
山彦の声に子供の頃の山彦の声が重なり【山彦(重)…大人と子供の山彦、山彦(子)…子供の山彦】
山彦(重)
やっほー!
山響子
…やっほー!
山彦(子)
やっほー!
山響子
…やっほー!
過去。子供時代
山彦(子)
また友達とサヨナラしたよー!
山響子
また友達とサヨナラしたよー!
山彦(子)
笑顔で別れようと思ったけど、無理だったー!
山響子
笑顔で別れようと思ったけど、無理だったー!
山彦(子)
街に行けること自慢しやがってさー!
山響子
街に行けること自慢しやがってさー!
山彦(子)
こっちの方がずっといいに決まってんじゃんかなー!?
山響子
こっちの方がずっといいに決まってんじゃんかなー!?
山彦(子)
虫捕り放題だしさー! 
山響子
虫捕り放題だしさー! 
山彦(子)
それから、えっと、あれだよ、えっと
山響子
それから、えっと、あれだよ、えっと
山彦(子)
虫捕り放題だしさー!
山響子
虫捕り放題だけかー!
山彦(子)
ん?
山響子
ん?
山彦(子)
今、返事したろ?
山響子
今、返事したろ?
山彦(子)
山響子! 今返事したろー!?
山響子
山彦! 今返事したろー!?
山彦(子)
お前、僕と同じ名前なんだなー!
山響子
お前、僕と同じ名前なんだなー!
山彦(子)
まぎらわしいなー!
山響子
まぎらわしいなー!
山彦(子)
でもちょっと安心したー!
山響子
でもちょっと安心したー!
山彦(子)
ひとりじゃねーなー!
山響子
ひとりじゃねーなー!
山彦(子)
お前が居るもんなー!
山響子
お前が居るもんなー!
現在
山彦
お前さ、居るんだろ? なあ、ご免な。あの時同じように安心してくれたのに、僕だけこの山から居なくって。…ここに未だ居るんだろー!?
山響子
ここに未だ居るんだろー!?
山彦
僕は今日の夜にでも行くよー!
山響子
僕は今日の夜にでも行くよー!
山彦
もう村は無いから!
山響子
もう村は無いから!
山彦
さようなら! 山響子!
山響子
さようなら! 山彦!
山彦
また来るよ!
山響子
また来いよ!
山彦
…。…え?
山響子
…やっほー!
山彦
…! やっほー!
おしまい