- 朝。王様は小さな畑の向こう側の、草が生い茂った土地をぼんやりと見渡している。
メイドのメアリーが起きたばかりの様子でやってくる。
- メアリー
- ふぁぁぁぁ・・あ、王様、おはようございます
- 王様
- ああ。おはよう、メアリー
- メアリー
- またご自分の国をみていたのですか?
- 王様
- 今となっては国と言っていいのか分からんがね。ただの野原だよ
- メアリー
- 野原でも国土です。王様の国です
- 王様
- ・・民に不要と言われ、愛想をつかされた王などただの笑い者だ
- メアリー
- あら、民はおります。
お城のメイドとして代々仕えるこの私が残ってるじゃございませんか
- 王様
- お前も国を捨てていいのだよ。給金もろくに払えていないのだから
- メアリー
- 今日はなにを収穫なさったんです?
- 王様
- え?ああ、タマネギとジャガイモを少し
- メアリー
- 王様の畑のおかげで食いっぱぐれることもございません。
私は満足しております
- 王様
- だがなぁ
- メアリー
- 王様、今日の朝ご飯はなんでございますか?
- 王様
- 今朝はにわとりがタマゴを産んでいたからオムレツにしようかと
- メアリー
- オムレツ!私お腹がぺこぺこでございます!さぁ早く朝ご飯に致しましょう!
- 王様
- ・・なんかおかしくないか?
- メアリー
- いいえ
- 王様
- そうか
- 王様のつくったオムレツを広い食卓で食べる、王様とメアリー。メアリーは満足げ。
- メアリー
- 王様、本日もおいしゅうございます。
王様は日々、お料理の腕があがっておりますね
- 王様
- そうか。やはりそう思うか(嬉し気)
- メアリー
- はい。このメアリー、王様に誓って嘘は申しません
- 王様
- では食後にこのオレンジも食べるとよい
- メアリー
- ありがたきお言葉
- 王様
- 私は皿を洗ってくる
- メアリー
- いってらっしゃいませ
- 王様
- ・・なんかおかしくないか?
- メアリー
- いいえ
- 王様
- そうか
- 王様は皿洗いを終えると洗面所へと向かう。
コンコンとノックの音がし、意気揚々とメアリーが入ってくる。
- メアリー
- 王様、そろそろ『あの』時間でございますか?
- 王様
- ああ、メアリー。よろしく頼む
- メアリー
- ではおそれながら王様。歯ブラシのご準備はよろしいですか?
- 王様
- いつでも構わぬ
- メアリー
- では・・参りますよ
- メアリーは真剣な表情で歯磨き粉のチューブを指で押し、
にゅーっと中身を絞り出すと 王様の歯ブラシにのせる。
- メアリー
- ふぅ。いかがです!この歯磨き粉の量! 1.5gちょうどに御座います!
- 王様
- シャカシャカシャカ、ふむ、あひはほう(うむ、ありがとう)
- 歯を磨く王様。一通り磨き終えると口を濯ぐ。
- 王様
- やっぱり・・なんかおかしくないか?
- メアリー
- ええっ?!歯磨き粉の量、いつもと違いましたか?!
- 王様
- そうではない。その・・歯磨き粉を出す以外の仕事も覚えてみてはどうだ
- メアリー
- めっそうもございません!
私にも代々王家に仕える『歯磨き粉係』としてのプライドがございます!
- 王様
- そうか
- メアリー
- 王様
- 王様
- なんだ?
- メアリー
- お昼ご飯は私、トマトスープが飲みとうございます」
- 王様
- ・・・
- メアリー
- どうかなさいましたか?
- 王様
- いや・・トマトスープだな?
- メアリー
- はい!
- こうして今日も王国の一日は過ぎていく。
- END