- バケツで雑巾をジャブジャブと洗い搾っている音。
指がかじかむのか、息を吹きかける男。
- 男
- ふう・・・・・これで、良しっと。
- バタバタと元気な足音が聞こえる。
- 少女
- ただいまー!
- 男
- おかえり。
- 少女
- おわったのー?
- 男
- うん、終わったよ・・・・・見てみて!
- 少女
- わあーピッカピカ!・・・・きれい!
- 男
- ちーちゃんも、お人形さんのお家キレイキレイに出来た?
- 少女
- うん!ピッカピカにきれいにしたもーん。
- 男
- よし・・・・・えらいぞ、ちーちゃん!
- 少女
- わーい・・・・・うふふ、おひっこし・・・・・いつするの?
- 男
- え・・・・・何?
- 少女
- おひっこし!
- 男
- え・・・・・・「おひっこし」?
おひっこし・・・・・・って、あの住んでるとこを別の場所に移す・・・・・「引越し」あれだよね・・・?
ちーちゃん・・・「おひっこし」って・・・・・・引越しって、こと・・・・かな?
- 少女
- うん!
- 男
- え・・・・・「お引越し」なんてしないよ・・・・・。
- 少女
- ええ・・・・・しないの!?
- 男
- う・・・・・うん。
- 少女
- やだー!おひっこし・・・・・・しないなんて、やだあ!ダメ!!
- 男
- ええっ・・・・・お引越し・・・・・・したいの、ちーちゃん?
- 少女
- うん!
- 男、考えあぐねる。
- 男
- 「やっぱり・・・・・いくら小さいとはいえ・・・・この広さの家では手狭かなあとは薄々思ってはいたんだけど・・・・・・やっぱり・・・・そうなのかあ・・・。」
- 少女
- どーしたの・・・・・・?
- 男
- ちーちゃん・・・・・・ごめんね・・・・・・ごめんね・・・・・。
- 少女
- ええ・・・・・なんで、あやまるの?
- 男
- お引越し・・・・・・できなくてごめんね。
- 少女
- できないの・・・・・おひっこし。
- 少女、思わず泣いてしまう。
- 男
- ごめんね・・・・・ごめん・・・・・。
- 男も、泣き声になっていく。
- ガチャリとドアが開く音。
- 女
- ただいまー、ごめんねスーパー混んでて・・・・・やっぱり大晦日よねえ。
あれ・・・・・どうしたの二人共?
- 男
- それが・・・・・・。
- 少女
- おひっこし、しないなんて・・・・・やだあ!
- 男
- ずっと、こうなんだ・・・・・・やっぱり、広い家じゃないと駄目だよなあ。
- 女
- (思わず笑いながら)はいはい・・・・・・お引越し、するわよ勿論!
- 男
- えっ!?
- 少女
- わーい!
- 女
- 今すぐ準備するからね。
- 少女
- やったー!
- 男
- えっ・・・・・・今からって・・・・・ええっ!?
- 女
- うふふ・・・・・慌てない慌てない、出来るまで・・・・・一休み一休み。
- 男
- ええっ・・・・・・「お引越し」ってボクが思うのと違うのかなあ・・・・・。
- 女
- 出来たわよ!
- 少女
- わーい!
- フーフーしながらすする音。
- 男
- もう、なーんだ・・・・・さては、間違えて覚えちゃったんだな。
ちーちゃん、これ何ていうのか知ってる?
- 少女
- としこしそばー!
- 男
- え・・・・・わかってるのに何で「お引越し」なんて、言ったの?
- 少女
- そうじゃないよ・・・・・・一年が「おひっこし」するの!
- 男
- ああ・・・・・・そうか!
そうだね「お引越し」!!
- 少女
- うん!
- 除夜の鐘の音が聞こえてくる。
- 女
- いよいよ始まるわね。
- 少女
- うん!ひっこし、はじまりまーす!
- 3人思わず笑い出す。
- 終わり。