- 男女二人の刑事が何者かを追って、
廃墟と化した町外れのビルの階段を慎重に上がっていく。
男の刑事は静かに階段を踏みしめる。女の刑事は何故かヒールを履いており、
コツンコツンと音をたててのぼっていく。
ふと踊り場で立ち止まる男。つられて女も止まる。
- 男
- おい
- 女
- なんです?
- 男
- なんでヒールなんだよ
- 女
- なんでって女だからです
- 男
- 違うだろ。なんで現場にヒール履いてくんだよ?
- 女
- ・・わかってないですね、先輩は
- 男
- わかってないのはお前だろ。犯人取り逃がしちゃったらどーすんの?
- 女
- そいつが犯人って決まったわけじゃないでしょ
- 男
- まぁそうだけど重要参考人ってことは間違いない。見ろこれ
- 男は女に写真の束を渡す。女はそれをめくり順番に見る。
- 女
- ここ一ヶ月の連続放火事件の現場写真ですよね・・ん?これって
- 男
- そう、あいつだよ。ほら、そっちの野次馬のなかにも写ってるだろ
- 女
- あ、これも!こっちにも!
- 男
- あいつは全現場に現れてる。なんか知ってるのは間違いない
- 女
- ほんとだったんですね
- 男
- 俺がデタラメ言った事あるか?
- 女
- じゃなくって。はー、ほんとまんまるだわ
- 男
- ああ、それな。俺もみたときビックリしたよ
- 女
- それで部署のみんなが言ってたんですね。『まんまるおじさん』って
- 男
- ああ。通称『まんまるおじさん』。見た目はタマゴみたいにまん丸で、身長は 150cmとかなり小柄。ピヨピヨという足音をたてて歩き・・
- 女
- ピヨピヨ?それなんかのギャグですか?
- 男
- しょーがないだろ。手配書にそう書いてんだから
- 女
- いや、あの、そんな目立つのになんで誰も捕まえれないんですか?
- 男
- なんでも『まんまるおじさん』が現れると、誰も彼もが幸せな気持ちでいっぱいになり思わず我を忘れてしまうんだとか
- 女
- なにそれ?催眠術ですか?
- 男
- 俺にもよくわからん。とにかく最後の目撃情報はこのビルの屋上だ。いくぞ
- ふたたび二人は階段を昇り出す。
- 女
- あー足いたい
- 男
- だからヒール履いてくるからだろ
- 女
- ・・その『まんまるおじさん』が幸せを呼んでるって可能性はないんですかね
- 男
- は?
- 女
- だから、不幸な人たちに幸せを運ぶ、幸福の『まんまるおじさん』説
- 男
- なんだ、そりゃ
- 屋上に辿りついた二人は非常扉をあけて外にでる。
- 女
- あー!もうすっかり夜じゃないですか!
今日も定時に上がれなかった・・はぁぁ(ため息)
- 男
- あれ?町ん中、こんなにイルミネーションだらけだっけ?
- 女
- だってもうすぐですよ、クリスマス
- 男
- ああ、そっか。すっかり忘れてた。
あーあ、こんな素敵な夜景を見ながら俺たちは仕事だよ。やってらんねーな
- 女
- ・・先輩
- 男
- なんだ?
- 女
- クリスマス、一緒に過ごしませんか?
- 男
- は?
- 女
- わたし、先輩のことが好きです
- 男
- お前・・前から言おう言おうと思ってたんだけど、実は俺もお前が
- 女
- ほんとですか?!
- 急に甘いムードの二人。その傍をピヨピヨとなにかが音をたてて通り過ぎていく。
- 女
- まさか、夢見たい
- 男
- ああ、俺もだよ
- 女
- わたし、幸せ
- 男
- 風、寒くないか?こっちこいよ
- 女
- 先輩・・
- ピヨピヨと足音が遠ざかって行くなか、
二人は幸せに満ち互いを抱きしめ合う。
- END