テレビの音とそれを見て笑っている男の声
玄関のカギをあける音
テレビのスイッチが切れる
女が入って来る
おかえり~
ただいま
どうだった?結婚式
すごく、素敵だった
それはよかった
小説は進んだ?
あー、いや・・・
・・・ねえ、まじめにやらなきゃ
やってるよ
うそ、ねえ、将来のこととか考えてる?
考えてるよ
例えば?
・・・じゃあ、こうしよう
何?
今から、きっかり三時間で僕はこれを書き上げる!
え?
そして、それができたなら、結婚しよう
なにそれ?
ちょっと、ひどいよ!せっかくのプロポーズが!結婚したくないの?
したい!けど、そういうことじゃない!私が言ってるのは
何か問題ある?
ある!大有り!結婚したって同じ!何も変わらない!
そうかな?
そう、あなた働くの?それとも、その書いた小説がすごく高く売れるの?
・・・
あのさ、私はねあなたの才能を信じてる、信じてるけど、
働いて疲れて帰ってきて、1ミリも進んでんない真っ白なその画面を見せられると、めいってくる
僕だってめいってる
そうね
だろ
もう、終わりにしなきゃ
どういうこと?
母さんが、帰ってきてお見合いしたら?って・・・
へえ
それだけ?
だって、しないでしょ?君のお母さん、2週間に一回はそうやって電話してくる
そうね
ほら、別に今に始まった事じゃない
ええ、でもそれは私にその気がなかったから
だって、ないでしょ?
・・・
・・・え、あるの?うそ!僕を捨てて?
・・・
できない、君にはできないよ、僕にはわかる
そんなの分からない
ああ、でも
でもなに?
僕の小説が売れるのは君の夢でもある
ええ、だから?
だから、君は夢を捨てられない
ええ、でも、それと私が結婚するのとは関係ない
はい?
私の夢はあなたの小説が世間で評価されることだけど、
それとあなたの恋人でいるってことは関係ないって気づいたの
どういうこと?
私が、あなたのそばで、生活を支えてるから、ダメなのよ!
え?
私がいなくなれば、あなたは働かなきゃならない、1日中テレビを見て、
ダラダラしてられない!そしたらきっと―
そんなことになったら、僕は書けなくなる!
私と居ても書いてないでしょ、大事なのはあなたの将来だって気づいたの
でも―
ごめんなさい、いつか、本屋さんであなたの本を手にとって元彼だって、
自慢させてよ。あなたに文章の才能があるって、私、今でも信じてる
だったら―
女は玄関を開けて出ていく
ちょっと!
少しの沈黙のあと
カタカタとパソコンのキーをたたく音がする