- うーん。うーん。と唸りながら寝ている小さい女の子。
水で絞ったタオルを額に乗せる男。
- 男
- ちょっとは・・・・熱、下がったかな。
- 少女
- うーん・・・・・・うーん。
- 男
- ずっと、食べてないだろ・・・・・・・・何か、食べたいものある?
- 少女
- こ・・・・・・・・こむ・・・・・・・。
- 男
- え?
- 少女
- こ・・・・・・こむ・・・・・・ぎこ。
- 男
- ・・・・・コムギコ?
- 少女
- こむぎこ・・・・・・・たべたい。
- 男
- ・・・・・・・・・小麦粉?
- 男
- 「ボクが子供の時は、みかんの缶詰を食べたいと言ったものだったが。
いまどきの子供は小麦粉が食べたいと言うのだろうか?
それともボクが知らないだけでコムギコなんていう名前の食べ物が存在するんだろうか?いや・・・・・・まてよ、お菓子の名前かな。
小麦粉・・・・・・・・・・・ええっ小麦粉・・・・・・・・・どう考えても小麦を挽いて作られた・・・・・・あれだよね?」
- 男
- ちーちゃん・・・・・・・こむぎこ・・・・・・って、どんなもの?
- 少女
- あ・・・・・あつくって・・・・・・ふーふー・・・・・・って食べる・・・・・こむぎこ。
- 男
- (考え込みながら)熱くてフーフーして・・・・・・食べる?
- ザクザクと包丁で何かを刻む音。
ボウルに小麦粉を溶いてかき混ぜる音。
ジュージューと音を立てて焼きあがる。
- 男
- ちーちゃん・・・・・・・分かった、お好み焼き?
- 少女
- うーん・・・・・・ちがうの・・・・・・・・その、こむぎこ・・・・・じゃないの。
ちーちゃんは・・・・・・・その、こむぎこじゃないのがいい・・・・・。
- 男
- じゃあ・・・・・・熱くてフーフーする、違う・・・・・・小麦粉・・・・・・。
あれかなあ・・・・・・・・・。
- ジュワッ、ジュワッと焼ける音。
串でひっくり返したりする音が聞こえてくる。
- 男
- 「ちーちゃん、沢山あるから一杯食べていいよ!」
- 少女
- 「わー!あたしも・・・・・・ひっくりかえしたいよー!」
- 男
- わかった!わかった!たこやきでしょ!?熱くてフーフーする小麦粉!
- 少女
- ちがう・・・・・・ちがうの・・・・・・・ちーちゃん、そのこむぎこも好きだけど。
そっちじゃないの・・・・・・・こむぎこ、食べたいよお・・・・・・・・。
うーん・・・・・・・うーん・・・・・・・。
- 男
- ああ・・・・・・・ごめんね、ちーちゃん・・・・・・・分からなくてごめんね。
- 少女
- あやまらなくていいよ・・・・・・うーん・・・・・・・うーん。
- 男
- うーん・・・・・・・なんなんだろう・・・・・・小麦粉。
- 2人、それぞれに唸る。
ガチャリと玄関を開ける音。
- 女
- ただいま・・・・・・・スーパー、混んでてごめんね・・・・・どう?
- 男
- ああ・・・・・・熱は少し下がった。
- 女
- (少女の額に手を当て)ホント・・・・・・・ああ、良かったあ。
ちーちゃん・・・・・・ご飯、作るからね。
- 男
- それが・・・・・・・・・。
- 少女
- ちーちゃんね・・・・・こむぎこ・・・・・・食べたい。
- 男
- さっきから・・・・・こうなんだよ・・・・・・。
- 女
- ちーちゃん・・・・・・・大好きだもんね、すぐ作るからね。
- 男
- え・・・・・・・・分かるの?
- 女
- 勿論。
- 男
- 何・・・・・・・・何なの!?
- 女
- (笑って)さあ、なんでしょう・・・・・・正解は出来上がってから、ね。
- 男
- なんだろう・・・・・・・熱くて・・・・・・フーフーする・・・・・・・小麦粉・・・・・うーん。
お好み焼き、たこ焼きも違うなら・・・・・・明石焼き・・・・・違うかなあ。
焼きたてのパン?それともピザ・・・・・・クレープ・・・・・・・・?
多すぎるよ・・・・・・・小麦粉。
- 女
- 出来たわよー。
- 男
- ちーちゃん、起きれる。
- 少女
- うん・・・・・・こむぎこ、たべたい。
- 女
- これ、食べて元気になってね。
- 男
- これかあ・・・・・思いつかなかったなあ・・・・・・・・この「小麦粉」。
- 少女
- わあ・・・・・・・ちーちゃんの、こむぎこ・・・・・・・いただきまーす。
- 全員
- いただきます。
- フーフーしながら、麺をすする音。
- 少女
- フーフー、あちち。
- 男
- 確かに・・・・・熱くてフーフーしながら食べるね、これ。
ちーちゃん、この小麦粉・・・・・なんて言うか知ってる?
- 少女
- うどん!
- 男
- (苦笑いしつつ)最初っから、そう言ってよ・・・・・・・。
- 3人、楽しそうに笑う。
- 終わり