- 会話の中で出てくるアニメは架空のアニメです。
古代少女ヒミコの声は、幼い女の子の声のイメージです。
歴史探偵ヒミコの声は、大人の女性の声のイメージです。
- ナレ
- 僕はシロクマです。シロクマのぬいぐるみです。
僕は待っています。駅のホームで。
あの子のことを待っているのです。
駅のホームに少女がやってくる。
- 少女
- あなた、こんなところで何してるの?
- シロクマ
- 待ってるんです。あの子のことを。ずっと昔、置いていっちゃったんです、僕をこのベンチに。彼女のこと、何か知りませんか。
- 少女
- どんな女の子?もしかしたらアタシの学校の友達かもしれないよ。
- シロクマ
- すいません。よく覚えていないんです。
あまりにも長いこと会っていないから。
でも会えば一目でわかります。それは間違いのないことなんです。
- 少女
- そうなの。可哀そうなシロクマさん・・・
そうだ。一緒に交番に行ってみようよ。きっと何かわかるはずだから。
- 走り出す少女。交番の扉を開ける音。
- 少女
- お姉さん。このシロクマさん、探してる人知らない?
- 婦警
- そんな人は知らないわ。でもしばらくしたら、そのぬいぐるみを探している人が現れるかもしれないわよ。
その時までここで預かっておきましょう。
- ナレ
- 少女は僕を交番に預けた後、どこかへ行ってしまいました。
しばらくすると中年の女性がやってきました。
- 中年女性
- すいません。シロクマのぬいぐるみを知りませんか。
実は娘が駅でなくしたみたいなんです。
- 婦警
- それってもしかしてこれですか。
- 中年女性
- ああ!それです。よかった。見つかって。
- ナレ
- 中年の女性は歓声を上げると、僕の左手を掴んで車に乗り込みました。
- 車が走り出す。
- ナレ
- 僕は嬉しかった。やっとあの子に会えるのですから。
- 夜がやってくる。
- 中年女性
- 嘘なのよ。
- シロクマ
- え?
- 中年
- 本当は娘なんていないの。ごめんなさいね。でもわかるでしょう。
とてもとても寂しかったのよ。ごめんね。ごめんね。本当にごめんね。
- ナレ
- 中年の彼女は山の一番奥の暗くてジメジメした場所に車を止めると、スコップを取り出し地面を掘りだしました。
- 中年女性
- 一緒に埋まってほしいのよ。わかるでしょ。
- ナレ
- 彼女は有無を言わさず、僕をできたての穴に放り込み、自分もそこにすっぽりと埋まってしまいました・・・
- たくさんの時間が流れました。
薄暗い土の中で僕は、
僕を交番へ連れて行ってくれた女の子のことを思い出しました。
僕を預かってくれた婦警さんを思い出しました。
そして誰からも愛されることもなく骨になっていく、
中年の彼女に心から同情しました。
そしてふと気が付きました。
もしかしたら彼女たちこそが
僕が待っていたあの子なのかもしれないということに。
でももう確かめようがありません。
月明かりが土を暖かく湿らせます。
僕はむくむくと本物のシロクマになっていきました。
- 終わり