- うるさいという程でもないが、屋内で人が行き交うような・・・
小さなざわめきが聞こえてくるがドアがパタンと閉じられると、
それも消えてしまう。
- 女
- あのね・・・・・・お願いがあるの。
- 男
- 何・・・・・改まって?
- 女
- 手紙、書かない?・・・・・お互いに書く、手紙。
- 男
- 手紙、ね・・・・・うん、いいんじゃない。
- 女
- (遮るように)もっと真剣な手紙・・・・上手く言えないけど。
結婚するって決まってから・・・・・なんか、あっという間だったじゃない。
初めてのことばっかりで・・・準備に追われて・・・・気付いたら、もう今日になってる。
なんだか・・・・このままでいいっていうか。
- 男
- (焦りながら)え・・・・・ミカちゃん・・・・・・ひょっとして、今マリッジブルーに?
- 女
- もう・・・・・そうじゃないってば。
ケンタ君のこと、勿論好きだし・・・・これからも、ずっと一緒にいたいし。
でも・・・・今・・・・自分自身と相手に向き合う時間が、必要なんじゃないかなって・・・・・とにかく、忙しかったし。
- 男
- そう・・・・・・だったよね。
- 女
- うん・・・・・だから、気付いたら結婚式が終わって、「新しい生活」になってるっていうより、今ちゃんと・・・・・真剣に考える時間、欲しいなって。
- 男
- うん・・・・・分かった。
オレも・・・・いつもより本気でちゃんと向きあってみるね。
- 女
- ありがとう・・・・・じゃあ、これ。
- 女、便箋を差し出す。
- 男
- 用意、いいね。
- 女
- でしょ。
- チクタクチクタク。時計の音がする。
- 女
- それから、黙ってペンを持って便箋に向かう、私達。
時計の音が、規則正しい時間を刻む。
これからの私達の時間もこうやって刻まれていくのかな。
時間って・・・・・あっという間なのに、今はとっても遅い。
早く進みもしないし・・・・・かと言って・・・・時間が、巻き戻ったりもしない。
あ・・・・・・なんか、気付いたら・・・・・お父さんのことばっかり書いちゃってる。
来て欲しかったなあ・・・・お父さん。
ケンタくんのお父さんも・・・・・残念なことに急に入院になっちゃったし。
でも、すぐに退院できるって・・・聞いてホッとしたけど。
結婚式に、お父さんがいるってどんなものか味わえるって・・・・・・思ったんだけどなあ。
お父さん・・・・・小さい頃から、私の前からいなくなった・・・お父さん。
お母さんが、ずっとついてくれてたけど・・・・・やっぱり寂しかったなあ。
お父さんが・・・・・ちゃんと色んなもの残してくれたから学校も行けたし、こうやって立派なところで・・・・・もうすぐ結婚式、挙げれるんだよね。
お父さん・・・・・・・って、どんな感じだったのかな。
もし子供が出来たら・・・・・ケンタくん・・・・・どんなお父さんになるのかな。
変なの・・・・・・お父さんのことばっかり。
- 男
- ・・・・・・ミカちゃん。
- 女
- どうしたの、ケンタくん・・・・・手紙、もう書けたの?
- 男
- ミカちゃん・・・・・・結婚式、おめでとう。
- 女
- え・・・・・・・。
- 男
- お父さんのこと、いっぱい思い出してくれてありがとう。
- 女
- え・・・・・・お父・・・・さん・・・・・なの?
- 男
- うん・・・・・・ちょっとだけケンタくんには悪いけど体、貸してもらった。
- 女
- お父さん・・・・・いきなりだよ。
ずっと・・・・・・会いたい時も、いなかったのに・・・・・ずるいよ。
- 男
- ああ・・・・・もう泣いちゃって・・・・・目が腫れたらせっかくの可愛い顔が台無しになっちゃうでしょ。
- 女
- だって・・・・・。
- 男
- お父さん・・・・・・ちゃんと見てるから。
どんな時も、見てるから・・・・・・・おめでとう。
- 女
- ありがとう・・・・・お父さん。
- チクタクチクタク。
- 男
- どうしたの・・・・・ミカちゃん、そんなに泣いて。
- 女
- え・・・・・お父さん・・・・・だって・・・・。
- 男
- お父さん・・・・・?
- 女
- あ・・・・・ケンタくん・・・・・・ううん、なんでもない。
(笑って)ありがとう・・・・・ケンタくん。
- 男
- 何・・・・・改まって。
- 女
- ううん・・・・・何でもない・・・・手紙書こう!
- 男
- うん・・・・・・オレ、ミカちゃんの笑ってる顔が好きだよ。
- 女
- ありがとう。
- 2人、微笑み合う。
- 終わり