- 少女が雪降る中、マッチ売りの少女よろしく焼きコオロギを売っている。
- 少女
- 焼きコオロギいりませんか?焼きコオロギいりませんか?
- しかし焼きコオロギは売れない。
- 少女
- はぁ・・・今日もコオロギ売れないなぁ。ひもじいよ。ひもじいよ・・・
- そこへコオロギの息子がやってくる。
- 息子
- あのすいません。
- 少女
- あ。コオロギですか?一匹100円になります。
- 息子
- いや。ちょっとお尋ねしたいことがございまして。実は私、コオロギの息子なですが、母を探しているんです。どこかで見かけませんでしたか?
- 少女
- 特徴は?
- 息子
- 首に真珠の首飾りを付けた・・・
- 少女
- あ・・・
- 息子
- ご存知ですか。
- 少女
- それってもしかして・・・
- 少女はコオロギを入れた袋を見せる。
- 息子
- 母さん・・・
- 少女
- すいません、焼いてしまいました・・・ごめんなさい!でも私、コオロギを焼くことしか取り柄がない女なんです!
- 息子
- いえ。気になさらないでください、実は母は、もう先が長くなかったのです。
病院を抜け出してどこへ行ったかと思ったら・・・
- 少女
- ・・・本当にすいません。
- 息子
- あの御嬢さん。この母さんコオロギ、一ついただけますか。
- 少女
- あ。もちろんです。どうぞ。(とコオロギを渡す)
- 息子
- 安らかな顔だ・・・母さん。もう安心して天国に行ってください。僕は大丈夫だから・・・
- 少女
- あの・・・これよかったらどうぞ。マヨネーズです。とってもコオロギに合いますよ。
- 息子
- そんな。悪いですよ。
- 少女
- いや悪いのはこっちです、受け取ってください。じゃないと私の気が収まりません。
- 息子
- ・・・ではお言葉に甘えていただきます。
- 少女
- コオロギにはマヨネーズが一番です。
- 息子
- ええ・・・
- 間
- 息子
- あ。あの。
- 少女
- はい?
- 息子
- もしよかったら、これから私とお茶しませんか。
- 少女
- え?
- 息子
- いや、あなた、コオロギを売っているだけあって、とてもコオロギに詳しそうだから・・いや、僕自身コオロギだからそのなんていうか・・・ずっと探していたいんです。コオロギについて語り合える人を。
- 少女
- ・・・はい。
- 息子
- ・・・よかった。
- 少女
- あの、実は私、今とてもお腹を空かしていて。ここ数日焼きコオロギしか食べていなくて・・・
- 息子
- それはいけない。そうだ。この近くにお勧めのカフェがあります、そこのオムライスがいけるんです。いきましょう。
- 少女
- オムライス!嗚呼。是非。
- 息子
- きっと気に入ると思いますよ。
- 少女
- ええ・・・
- 間
- 少女
- あの・・・
- 息子
- はい?
- 少女
- ・・・実は私もあなたみたいなコオロギをずっと探してました。
- 息子
- ・・・(照れて)ああ・・・じゃあ行きましょうか。
- 少女
- はい。
- 二人は手をつないで夜の街へ消えていく・・・
- 終わり。