- 銀河の真ん中
宇宙の喧騒
遠くで宇宙ゴミが飛び交う音
- 刑事
- 織姫さんですよね
- 織姫
- どちら様?
- 刑事
- 刑事です
- 織姫
- 何でしょう
- 刑事
- デネブさんが事故でお亡くなりになられました
- 織姫
- え、デネブさんって
- 刑事
- ええ、夏の大三角形の大切な一角だったのに
- 織姫
- そうですか…彼女、亡くなったんですか…
- 刑事
- ちなみに、七夕の夜って何されてました? あくまで形式上の質問です
- 織姫
- え、事故じゃないんですか?
- 刑事
- 彼女、宇宙ゴミに激突して亡くなったんですが、遺体にもう一つ突き飛ばされたような跡がありまして…七夕の夜は何を?
- 織姫
- 天の川で彦星さんとお会いしていました
- 刑事
- そのあとは?
- 織姫
- 帰りました
- 刑事
- 帰り道、誰かとお会いしていませんか?
- 織姫
- いえ
- 刑事
- 天の川の外れでこんなICレコーダーが発見されまして
- 織姫
- (息を呑む)
- 刑事
- ご存知ですよね。デネブさんのものです。これにあなたの声が録音されています。聴いてみましょう
- 刑事、再生する
織姫の声が流れる
少し聞き取りにくい
- 織姫
- うん、確かに確かに。でも、短冊に願い事書かれても、私たちどうしようも出来ないじゃない。願い事なんて叶わないんだからさ。星に願い事してる暇があったら自分で努力しろよって。その辺、どう思う? そこ、誰かいるの!?
- 録音が途切れる
- 刑事
- あなたの声ですよね?
- 織姫
- いいえ
- 刑事
- これはあなたと彦星さんとの会話です
- 織姫
- 何でそう言い切れるんですか?
- 刑事
- "短冊に"願い事書かれても、"私たち"どうしようも出来ない。短冊に願いを託されるのは、あなたたちだけです
- 織姫
- 今のが私の声だとしても、私が彼女を突き飛ばしたことにはならないですよね
- 刑事
- デネブさんは会話を録音し、あなたを脅したんです。「彦星さんと会うのをやめないとこの録音をばら撒くわよ」あなたは咄嗟に、この録音がバレるとマズイと思い、彼女を突き飛ばした。違いますか?
- 織姫
- 私がやったという証拠はあるんですか?
- 刑事
- 残念ながら、証拠はありません。ただ、イメージが大切な人の犯行だということは間違いないでしょう。"願い事なんて叶わない"という言葉…それを聞かれただけで、突き飛ばしてしまう人は、短冊に願いを託された男女二人だけです…まだ続けますか
- 織姫
- もういいです
- 刑事
- それは自白と考えていいですか
- 織姫
- …はい
- 刑事、無線機を使う
- 刑事
- (無線に)えー、こちらデカ。ただ今、ホシ、検挙しました。事件の発端は、三角関係。夏の大三角関係、といったところです
- 刑事、無線機を切る
- 織姫
- 刑事さん、私、子供の頃、スターになることに何の疑問も抱かず、自分で『七夕さま』を歌っているような子だったんです―
- 子供の頃の織姫の歌声(歌は『七夕さま』)
(一番)ささの葉サラサラ/軒端に揺れる/お星さまキラキラ/金銀砂子
(二番)五色の短冊/わたしが書いた/お星さまキラキラ/空から見てる
その歌声に今の織姫の語りが被る
- 織姫
- 地球の人たちが書く短冊を見て、私が叶えてあげる!って思ってました。でも、そんな世界じゃないって分かって来たんです。だんだん、みんなの希望を背負うことが負担になって来ました。イメージなんてどうでも良かったんです。ただ、すべてを終わりにしたかったんです
- 刑事
- そうだったんですか…すべて、終わりましたね
- 織姫
- 願い事って叶うもんですね
- 終