- 雨が降りしきる音。
男、窓をがらりと開ける。
- 男
- いい、お天気になりますように。
- 雨は止まない。
- 男
- ・・・・・・いい、お天気になりますように!
- 雨はやまない。変わりに雨音が増す。
- 男
- (力なく笑い)3度目の正直ね・・・・・・いいお天気になりますように!!
- どっと雨が勢いをます。
雷が轟く。
男、慌てて窓をピシャリと閉める。
- 男
- この通り・・・・・・「晴れ男」じゃないんだよね、もう。
- 女
- でも・・・・目の前で・・・・・雨がサーッと引いて、パーっと空がこう晴れて。
- 男
- それが・・・・・・あの後から、さっぱり
。
- 女
- でも・・・・・・・・・・・どうして?
- 男
- なんでかなあ・・・・・・・まあ、「晴れ男」じゃなくなっても別に困らないし。
- 女
- 私は・・・・・・・・困ります!
- 男
- みたいだねえ・・・・・・・・。
- 女
- こんなことになるなら・・・・・・・・なんで思っちゃったんだろう。
雨が降ればいいとか・・・・・・・全然止んでくれないし・・・・・。
「雨女」に生まれてきちゃうなんて・・・・・・・もう、ついてないです。
- 男
- ほんと大袈裟だな・・・・・・・っていうか「雨女」って本来の意味、違うでしょ。
大事なイベントに限って雨が降るから言われる、あれでしょ。
思っただけで・・・・・・・・雨が降るって、そんな。
- 女
- 先輩・・・・・・・人のこと言えますか?
- 男
- そうだけど・・・・・・・僕のは「個性」、君はただの「思い込み」だよね?
- 女
- (無視して)もう・・・・・・このまま雨が振り続けたらどうしましょう。
街が水浸しになって・・・・・溢れて隣町に浸水して・・・・・そのまた隣町へ。
そして・・・・・そのまた隣町へ・・・・まるで洪水のドミノ・・・・・世界中に水が溢れかえってしまって・・・・・・・・。
- 男
- ね・・・・・・・人の話聞いてる?
- 女
- 先輩・・・・・・・お願いです、早く良くなって元の「晴れ男」に戻って下さい。
- 男
- ええ・・・・・・そんな人を病気かなんかみたいに。
- 女
- このままじゃ・・・・・・世界の終わりです。
- 男
- ええ・・・・・・そんな十字架背負わされたくないよ。
この雨が・・・・・うっかりでも降ればいいと、思ったんなら君のせいだよね?
- 女
- そ・・・・・・・・・そうです。
- 男
- なんで・・・・・・雨が降ればいいと思ったのか。
それが解決すれば・・・・・・案外、雨が止む日も近いんじゃないかな。
- 女
- なるほど。
- 男
- で?
- 女
- えっ・・・・えーと・・・・・・その・・・・・・秘密。
- 男
- 世界・・・・・・・終わるね。
- 女
- ええっ・・・・・・・酷いですよ。
- 男
- じゃあ・・・・・君の話、聞かせてもらおうか。
- 女
- 虹を・・・・・・・・見たかったんです。
- 男
- ・・・・・・・え?
- 女
- なんか・・・・・・うまく言えないんですけど、ほら私・・・・仕事も失敗するし恋愛も上手くいかなかったり・・・・・・好きな人に告白も出来ないし、よく何もないのに転んだり・・・・・とにかく不器用で・・・・・何もないまんま、ぼんやり毎日終わるのかななんて・・・・・思ったら、小さい頃見た虹を・・・・・思い出しちゃって。
恥ずかしいんですけど・・・・・・・だから・・・・・・その。
- 男
- それで・・・・・・雨・・・・・・・・降ればいいなあって?
- 女
- だって・・・・・・雨上がりに見れるものだし。
でも・・・・・・・・・・雨ずっと止まないなんて思わなくて・・・・・・虹も見れないし。
先輩にも頼れないし・・・・・・・どうしたらいいんでしょうか。
- 男
- 問題を解決する前に・・・・・・雨がやまないと、まず解決しないんだ。
- 女
- はい・・・・・・・。
- 男
- ねえ、見れるとして虹・・・・・・・誰と一緒に見たい?
- 女
- え?
- 男
- 今なら出来そうな予感がするから・・・・・好きな人と見るんなら何とか調整出来るようにしてみるし。
- 女
- あの・・・・・・先輩。
- 男
- やったことないけど・・・・・頑張ってみるよ。
- 女
- 今すぐ・・・・・・・お願いします。
- 男
- え?
- 女
- 先輩と・・・・・・一緒にみたいですから。
- 男、勢い良く窓ガラスを開ける。降り続く雨。
- 男
- いい・・・・・・・・・お天気になりますように。
- 雨が止んだ。
- 女
- わあ・・・・・・すごい!
- 男
- ・・・・・・・でしょ。
- 2人、窓の外の向こうにかかる虹を見ている。
- 終わり