- ナレ
- 痩せるタヌキのぬいぐるみというのが爆発的に流行った時期がある。
当時付き合っていた彼氏がUFOキャッチャーで1000円費やして取ってくれたその日、私はそのぬいぐるみを抱いて眠った。
- 私
- 本当に痩せれる?
- タヌキ
- 痩せれますよ。タヌキの僕が保証します。
- 私
- 最近過食が酷いのよ。お腹まわりがまるであなたみたい。
- タヌキ
- 眠って目が覚めたら、全部なくなってますよ。
- 私
- お腹ぺっタンコ?
- タヌキ
- はい。ペッタンコです。
- 私
- どうしてそんなことができるの?
- タヌキ
- 僕があなたのエネルギーを栄養にしているからです。
- ナレ
- 次の日、目が覚めると確かに私のお腹は少し凹んでいた。
- 私
- 本当に痩せたわ。
- タヌキ
- そりゃあ痩せますとも。
- 私
- 今、すごい流行ってるの。どこのゲームセンターでも品切れみたい。
- タヌキ
- みなさん、死ぬほど痩せたいみたいですね。そんなに痩せたいですか。
- 私
- そりゃあスリムに見られたいもの。
- タヌキ
- どうして?
- 私
- どうして?・・・どうしてってスリムの方が見栄えがいいでしょ。
- タヌキ
- そうですか?別に僕はスリムなタヌキだろうが、太ってるタヌキだろうが、どちらでも構いませんよ。
- 私
- 嫌。私はスリムでいたい。
- タヌキ
- そうですか。それでしたら、これからもずっと僕を抱いて眠ってくださいね。
- ナレ
- それから私は毎日タヌキを抱いて眠った。私は少しずつ少しずつスリムになった。
そして毎日夢を見た。
- 私
- 夢を見るの。
- 彼氏
- 夢?
- 私
- 夢の中でね。私は、タヌキのぬいぐるみで、ゲームセンターの箱の中でUFOにさらわれるのを待っているの。
- 彼氏
- ・・・おまえ、大丈夫か。最近痩せすぎじゃないか。
- 私
- 痩せてる私、嫌い?
- ナレ
- 私はどんどんどんどん痩せていった。そしてある日、痩せすぎて死んでしまった。
けれど私は、タヌキの夢を見たまま死んだので、それを辛いとは思わなかった。
私はゲームセンターの中で、UFOにさらわれるのを待っていた。
- 女
- ねぇお願い。あれ取って。お願い。
- 彼氏
- おまえ、タヌキ好きなの?
- 女
- 流行ってるのよ。あれを抱いて眠ったら痩せれるんだって。
- 彼氏
- まさか。
- ナレ
- UFOから伸びてきた巨大な手が、私のぷっくりとしたタヌキ腹をがっしりと掴んでいく。
ガラスの向こうでは女が歓声を上げている。
- 終わり。