けたたましい、ベルの音。
もうすぐ電車が発車する合図なのか、急いで階段を駆け上がる足音。
(息を切らしながら)ちょっと・・・・待って・・・・・。
しかし、無情にもドアが締まり、ガタンゴトンと行ってしまう。
ええ・・・・・・・そりゃないよ・・・・・・。
息が上がって、少し苦しそうにドカッとホームのベンチに座る。
勢い良く座った拍子に、隣に座っている女にぶつかる。
あ・・・・・すみません・・・・・あれ・・・・・・寝ちゃってる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
あの・・・・・・・・ちょっと・・・・・・・あの・・・・・・・。
男、思わず女の肩を叩く。
もう・・・・・・何!?
わっ・・・・・すみません。
(やや不機嫌そうに)・・・・・何ですか?
あの・・・・・終電・・・・・・。
終電・・・・・・・そうだ、何時だっけ!
さっき・・・・・・行っちゃったけど。
ウソ!?
・・・・・・・ホント。
女、大きなため息をつく。
酔っ払った、大丈夫?・・・・・・家、遠いの?
まあまあ・・・・・・・って、ナンパだったらお断りだからね。
そ、そりゃないよ・・・・・心配して聞いたのに酷いなあ。
そう?
そうだよ・・・・・そうじゃなかったら、駅員でもないのに起こしたりしないって。
あ・・・・・そっか・・・・・・それならいいんだけど。
わかってくれたら、それでいいんだけどさ。
(ため息混じりに)あ・・・・・・・日付変わちゃった。
わっ!?
(驚いて)・・・・・・・何?
・・・・・・・忘れた。
え?
ケーキ・・・・・・・仕事忙しくって・・・・・つい。
こんな時間じゃ・・・・・・・どこも、空いてないだろうし。
もう・・・・・最低だなあ。
お土産に・・・・・・・頼まれてたの?
そういう訳じゃないんだけど・・・・・・・・・家族の誕生日で。
ああ・・・・・・・そうなんだ。
ダメだなあ・・・・・・オレ。
そんな落ち込まなくても、大丈夫。
(泣きそうに)だってさあ・・・・・・・・せっかくの記念日だよ・・・・・・・。
(遮るように)開いてるとこ、あるから。
え・・・・・・・ホント?
商店街の中通りの端っこにあるんだけどね。
良かったあ・・・・・・。
(思わず笑って)さっきはごめんなさい。
え?
ナンパ扱いしちゃって・・・・・・こんな家族思いの人、疑っちゃって。
いやいいよ、いいこと教えてもらったし。
こっちこそ、いいこと教えてもらっちゃって・・・・有難う。
え?
あたし・・・・・・・・実は、ケーキ作る仕事してて。
あ・・・・・えーと・・・・パティ・・・シエ?だっけ?
そうそう。
わあ・・・・・すごいじゃない。
人と休みはなかなか合わないし・・・・・・朝は早いし、立ちっぱなしで、腰は痛いし・・・・・キツイんだよね、意外と。
そっか・・・・・大変なんだなあ。
って・・・・・・・最近、疲れてたんだけど・・・・・
さっきもつい居眠りして終電乗り過ごしちゃったし。
ささやかな事かもしれないけど・・・・・
誰かの記念日のお手伝い出来てるのかもって。
あなたのお陰で・・・・そう思えちゃって・・・・・有難う。
いや・・・・・そんな。
じゃ、行きましょう。
え・・・・・・・いいの?
案内するわよ・・・・・・どうせタクシーで帰るんだもん。
少しおまけしてもらえるように頼んどく。
有難う。
あ、メッセージもこの際、私チョコレートで書くから。
後で名前教えて。
(笑いながら)名前だとちょっと恥ずかしいかな。
え?
「お母さん、お誕生日おめでとう」でいいよ。
お母さん・・・・・・・てっきり奥さんか子供かと。
残念ながら独身・・・・・毎日、こんな遅いんじゃ出会いなんてナイナイ。
そうなの?
まあね。
あ・・・・・もうそろそろ急がないと閉まる時間かも。
えっ!?
なーんてね、でも急ぎましょう。
ちょっと、待ってよ。
女が足早に行くのを追いかける男。
おわり。