- 結婚式に流れるのにうってつけなパイプオルガン曲が流れている。
突然、ドンドンドンと乱暴に叩きつける音がすると、曲も途絶える。
ドアが開く音と共に大声で叫ぶ声。
- 男
- エレーン!!エレーン!!
- 女
- (遮って)ちがう、違う、ちがーう!!
- 男
- え?
- 女
- もう、何度も言ってるのに・・・・そんな名前じゃないし、変でしょ?
- 男
- あ・・・・・・悪い、役になりきりすぎちゃって。
- 男、誤魔化すように笑ってみせる。
- 女
- あの役って・・・・・ダスティン・ホフマンだっけ?
- 男
- そう・・・・・和製ホフマンみたいだったでしょ?
- 女
- 図々しい・・・・・そんな演技派ってキャラ?
- 男
- だよなあ・・・・・。
- 男、溜息を付く。
- 女
- ん?元気ないじゃない・・・・・・休憩する?
- 男
- いや・・・・大丈夫、まだ一緒に逃げる所まで出来てないし。
- 女
- そうだった・・・・・ドラマティックに盛り上げないと!
- 男
- ねえ・・・・ホントにこれやっちゃうの?
- 女
- そうよ・・・・今更、何言ってるの。
ノリノリで賛成したの、あんたでしょ?
- 男
- そうだけど、飲みの席だったし・・・・・冗談だって思ったから。
- 女
- あたしは、いつでも本気と書いて「マジ」な人間なんだからね。
そうじゃなかったら、役者のあんたに頼まないわよ。
- 男
- それが、人に頼む態度かなあ・・・・・・。
- 女
- この通り、お願いします・・・・役者サマ!
- 男
- 売れない役者だけど・・・・・結婚式の余興にしたって大胆すぎるっていうか。
親兄弟親戚も勿論いるんでしょ・・・・旦那さんもよくオッケーしたよね。
- 女
- 言ってないから、オッケーしようもないんだけどね。
- 男
- え・・・・・・・?
- 女
- 実は・・・・・・まだ言ってない。
- 男
- え!?なんで!?
- 女
- サプライズだもん。
- 男
- それやめよう・・・・・ホントやめよう。
後々、問題になるし・・・・旦那さんに怒られるのなんて嫌だって。
必死に追いかけてきたりとか・・・・想像しただけで申し訳ないよ。
- 女
- 追いかけてくれるかなあ・・・・・。
- 男
- 何、言ってんの・・・・追いかけてくれるに決まってるじゃない。
- 女
- そうなら・・・・いいんだけど。
- 男
- どうしたの・・・・らしくないじゃない。
- 女
- なんか自信なくって・・・・・・・。
- 男
- 何・・・・・・・いわゆるマリッジブルーってやつ?
- 女
- あたしが・・・・・というより、向こうが。
- 男
- ・・・・・・・・・・。
- 女
- 最近・・・・電話とかメールとかしても返してくれる回数減っちゃったり。
- 男
- 結婚式が近いから忙しいんだよ。
- 女
- でも・・・・・前はどんなことがあっても返してくれたんだよ。
- 男
- なんでそういうの気にするのかなあ・・・・女の子って。
結婚したら、毎日会えるのに・・・・・・・。
- 女
- だからこそ心配なんだよ・・・・・・。
- 男
- え?
- 女
- 今こんな状態なのに・・・・結婚したらもっと不安になるんじゃないかって。
- 男
- 本当のマリッジブルーは、花嫁なんじゃないかな。
- 女
- だって・・・・・自分に自信ないんだもん・・・・・だから、確かめたくて。
- 男
- ・・・・・・・・・・・・・・・。
- 女
- やっぱ、迷惑だよね・・・・・ごめんね、ホント。
- 男
- じゃあ練習しよう・・・・・っていうか、ある意味は本番というか。
- 女
- え?
- 男
- ただし・・・・・・オレはただの「花嫁ドロボー」を演じるんじゃない。
未来への生活に自信が持てない花嫁の「不安な気持ち」を奪い去る。
いい?そういう演出でしか、やらないから。
今日一日、とことん付き合う・・・・それでも「不安」が消えなかったら本番も演じる・・・・・・・だから、元気出して。
- 女
- ありがとう・・・・・・・。
- 男
- だから、お前もさ・・・・・うっかりオレの事、好きにならないように頑張って。
- 女
- うん・・・・・絶対、ないから!!
- 男
- あ・・・・・・そうなんだ。
- 女
- じゃあ、練習はじめよ。
- パイプオルガンの曲が聞こえてくる。
- おわり