結婚式に流れるのにうってつけなパイプオルガン曲が流れている。
突然、ドンドンドンと乱暴に叩きつける音がすると、曲も途絶える。
ドアが開く音と共に大声で叫ぶ声。
エレーン!!エレーン!!
(遮って)ちがう、違う、ちがーう!!
え?
もう、何度も言ってるのに・・・・そんな名前じゃないし、変でしょ?
あ・・・・・・悪い、役になりきりすぎちゃって。
男、誤魔化すように笑ってみせる。
あの役って・・・・・ダスティン・ホフマンだっけ?
そう・・・・・和製ホフマンみたいだったでしょ?
図々しい・・・・・そんな演技派ってキャラ?
だよなあ・・・・・。
男、溜息を付く。
ん?元気ないじゃない・・・・・・休憩する?
いや・・・・大丈夫、まだ一緒に逃げる所まで出来てないし。
そうだった・・・・・ドラマティックに盛り上げないと!
ねえ・・・・ホントにこれやっちゃうの?
そうよ・・・・今更、何言ってるの。
ノリノリで賛成したの、あんたでしょ?
そうだけど、飲みの席だったし・・・・・冗談だって思ったから。
あたしは、いつでも本気と書いて「マジ」な人間なんだからね。
そうじゃなかったら、役者のあんたに頼まないわよ。
それが、人に頼む態度かなあ・・・・・・。
この通り、お願いします・・・・役者サマ!
売れない役者だけど・・・・・結婚式の余興にしたって大胆すぎるっていうか。
親兄弟親戚も勿論いるんでしょ・・・・旦那さんもよくオッケーしたよね。
言ってないから、オッケーしようもないんだけどね。
え・・・・・・・?
実は・・・・・・まだ言ってない。
え!?なんで!?
サプライズだもん。
それやめよう・・・・・ホントやめよう。
後々、問題になるし・・・・旦那さんに怒られるのなんて嫌だって。
必死に追いかけてきたりとか・・・・想像しただけで申し訳ないよ。
追いかけてくれるかなあ・・・・・。
何、言ってんの・・・・追いかけてくれるに決まってるじゃない。
そうなら・・・・いいんだけど。
どうしたの・・・・らしくないじゃない。
なんか自信なくって・・・・・・・。
何・・・・・・・いわゆるマリッジブルーってやつ?
あたしが・・・・・というより、向こうが。
・・・・・・・・・・。
最近・・・・電話とかメールとかしても返してくれる回数減っちゃったり。
結婚式が近いから忙しいんだよ。
でも・・・・・前はどんなことがあっても返してくれたんだよ。
なんでそういうの気にするのかなあ・・・・女の子って。
結婚したら、毎日会えるのに・・・・・・・。
だからこそ心配なんだよ・・・・・・。
え?
今こんな状態なのに・・・・結婚したらもっと不安になるんじゃないかって。
本当のマリッジブルーは、花嫁なんじゃないかな。
だって・・・・・自分に自信ないんだもん・・・・・だから、確かめたくて。
・・・・・・・・・・・・・・・。
やっぱ、迷惑だよね・・・・・ごめんね、ホント。
じゃあ練習しよう・・・・・っていうか、ある意味は本番というか。
え?
ただし・・・・・・オレはただの「花嫁ドロボー」を演じるんじゃない。
未来への生活に自信が持てない花嫁の「不安な気持ち」を奪い去る。
いい?そういう演出でしか、やらないから。
今日一日、とことん付き合う・・・・それでも「不安」が消えなかったら本番も演じる・・・・・・・だから、元気出して。
ありがとう・・・・・・・。
だから、お前もさ・・・・・うっかりオレの事、好きにならないように頑張って。
うん・・・・・絶対、ないから!!
あ・・・・・・そうなんだ。
じゃあ、練習はじめよ。
パイプオルガンの曲が聞こえてくる。
おわり