- 鍋を火にかけて、なにやらグツグツと音がする。
ボウルで何かを混ぜるような音が聞こえてくるが、
やがて止まり女がため息をつく。
- 女
- 疲れちゃった・・・・・・・・休憩していい?
- 男
- 折角、溶かしたのに・・・・また固まっちゃうじゃない。
- 女
- その時は・・・・・・・・また溶かせばいいかなって。
- 男
- ダメ駄目・・・・風味が悪くなるし、それに・・・・・・・・。
- 女
- (遮って)電子レンジでチンは?
- 男
- もっと、駄目だって・・・・・綺麗に溶けないしダマになっちゃうでしょ。
折角作るんだから、ちゃんと頑張りましょう。
- 女
- チョコ・・・・・・・・溶かしてハートのカップにいれるだけでいいと思うんだけど。
- 男
- それ、手作りって言わない・・・・・・・・・。
- 女
- うん・・・・・・・言わない、ね・・・・・・溶かしただけだもんね。
- 男
- じゃ・・・・・続けて。
- 再び、ボウルを混ぜる音。
- 男
- ね・・・・・・・・どうして?
- 女
- え?
- 男
- 手作りチョコ・・・・・・なんてさ。
- 女
- うん・・・・・・・・・なんとなく。
- 男
- ん?
- 女
- きっと、美味しいお店で買ったりした方が楽チンだし。
相手も、そっちの方がいいかもしれないけど・・・・・・・たぶん、きっと。
でも・・・・・・・なんていったらいいのかな・・・・・・。
例え・・・・美味しくなくっても、あまーくても苦くっても、その人には何か残せるんじゃないかなって・・・・・・・気持ちっていうか思いっていうか。
- 男
- ・・・・・・・・・・・なるほど。
- 女
- あ・・・・・・・・重たい、かなあ?
- 男
- 手編みのマフラー程じゃないと思うよ。
- 女
- なるほど・・・・・・参考になる。
- 男
- その前に、出来ないでしょ・・・・・・・・不器用なんだから。
- 女
- (苦笑いしつつ)だよねえ・・・・・・・せめてチョコだけでもなーんてね。
せんせ、よろしくお願いします。
- 男
- うん・・・・・・綺麗に溶けたかな。
じゃあ、これにさっき刻んだドライフルーツとコーンフレークを混ぜて。
ミルクは入れすぎるとダメだから気をつけて。
- 女、ボウルに材料を入れて混ぜ合わせる。
- 男
- うん、いいね・・・・・・・それを、一口サイズに丸めてみて。
- 女
- (一口食べて)美味しい!!
- 男
- もう・・・・・・・・つまみ食いしてないで、ちゃんとやって。
- 女
- ・・・・・・こうかな?
- 男
- そうそう・・・・・・・うん、いいんじゃない。
そして、これを冷蔵庫で冷やし固めたら出来上がり。
- 女
- かんたーん。
- 男
- でしょ。
- 女
- じゃあ、先生、休憩タイムでいい?
- 男
- その「先生」やめてくれよ、調子狂うなあ。
- 女
- だって、今日は教えてもらってるんだもーん。
持つべきものは、器用な友達だねえ。
- 男
- 調子いいんだから・・・・何、飲む・・・・・コーヒー、紅茶?
- 女
- うーん、紅茶かな。
- 男、紅茶を入れる。
- 女
- わあ、いい香り・・・・・・・これでケーキとかあったら素敵なラブストーリーでも始まりそうなーんてね。
- 男
- はい、どうぞ。
- 男、テーブルに皿を置く。綺麗な美味しそうなケーキがのっている。
- 女
- わあ・・・・・・・なんか、出来すぎシチュエーションじゃない?
私でなんだか、悪いような・・・・・・・。
- 男
- いいんだよ、君で。
- 女
- え・・・・・・・・・えっ・・・・・・・?
- 男
- たまには、男がバレンタイン頑張ってもいいと思って。
- 女
- えーと、えーと・・・・・でも・・・・・・私・・・・・・・・・・・・・・。
- 男
- (遮って)分かってる、それでもやっぱり伝えたかったから。
- 女
- ・・・・・・・・。
- 男
- あ・・・・・・・・重たいかな?
- 女
- ううん・・・・・・・・嬉しい、すっごく。
- 男
- え?
- 女
- 今日、作ったチョコ・・・・・・・・実は、あなたに一番食べてほしかったから。
- 二人、笑いあう。
- おわり。