とあるバス停。
先に止まっている一台の青いバスの後ろに、もう一台、緑のバスが止まる。
緑のバス
おい、そこの!まえに止まってる、おまえだよ、おまえ!
青いバス
なにかしら
緑のバス
『なにかしら』じゃないっての、気取った青いボディしやがって
青いバス
わたしのピカピカのブルーの車体が羨ましいからって、毎回毎回、変な因縁つけないでくれる?旧型の緑色さん
緑のバス
だれが羨ましいって?!この若葉台を走るバスは、み・ど・り、緑って昔っから決まってんだよ
青いバス
ご存知ないようね。一年前からその常識はかわったの。今はあ・お、青よ
緑のバス
かーっ!この道を走り始めて、たった一年の新米が偉そうな口きくんじゃないよ!
青いバス
新米じゃないわ、新品よ。お客さんだって硬いシートのオンボロバスに乗るより、ふかふかのシートの清潔なバスに乗る方が嬉しいに決まってるでしょ
緑のバス
俺が不潔みたいな言い方すんな!毎朝ちゃんと掃除のおばちゃんがせっせと磨いてくれてんだ!おまえそれにケチつけんのか?
青いバス
清掃員さんにケチなんてつけてないわよ。ただ、年にはさからえないってことね
緑のバス
なにおぉぉっ!この俺はなぁ、今迄何百人、何千人と人を乗せてんだ。数が違うんだよ。お客様がなぁ、なにをのぞんでるかなんておまえに説かれる筋合いはない!
青いバス
・・ノンステップバス
緑のバス
うっ
青いバス
出入り口の段差を無くしお年寄りも楽々乗れるこの画期的な設計にあなたは勝てるのかしら
緑のバス
う、う、うるさい。接客ってのはな形じゃない・・心!そう、心なんだよ!
青いバス
バスが心とか言わないでくれる?
緑のバス
おまえは本当に、いちいち、いちいち!だいたいなぁ、この時間は俺がここの停留所に止まるはずなんだよ。なんで、おまえがいるんだよ
青いバス
仕方ないでしょう。わたしが走ってる時間帯って、道が混むんだもの
緑のバス
時刻表守れよ、時刻表!
青いバス
なによ、お客様を危険にさらしてスピードだせっての?
緑のバス
そうは言ってないだろ、そうは!ただ、おまえが俺の到着時間に先に止まってたらな・・みんなお前に乗っちまうだろうが!
青いバス
あら、負けを認めるのね
緑のバス
勝ち負けの話しじゃない、立場をわきまえろって言ってるんだ!これだから最近の若手のバスってやつは・・
青いバス
それ完全にオヤジ発言
緑のバス
だ・ま・れ!
お互いに、ふーっと一息つく。
緑のバス
・・よぅ、最近どうだ。その、なんだ、うまくいってんのか
青いバス
うまくって?
緑のバス
ほらよ、はじめの頃泣いてたじゃねーか。ガキにガムをべったり、くっつけられたって
青いバス
ああ・・うん。大丈夫。確かに時々心ない人もいるけど、降りるときに有り難うって言ってくれるお客さんの声を聞いたら、やっぱりわたしバスで良かったって思う
緑のバス
そうか。なら、いいんだ。まぁ、あんまり無理しすぎんなよ
青いバスがビーッとなり『発車します』とアナウンスが入る。
青いバス
・・そろそろ行かないと。他人の心配してる暇あったら自分を大事にしなさいよ、もぅいい歳なんだから!
緑のバス
うるせぇ!減らず口叩いてないで、さっさと出発しちまえ!
青いバス
はいはい、またねー!おじさん!
緑のバス
おにいさんだ、おにいさん!
青いバスはエンジン音をたてて出発する。
緑のバス/青いバス
(同時に)あーあ、また、道混まないかなぁ・・
END