- ずさずさと何かを掻きわける音がする。
- 妹
- 兄ちゃん・・・兄ちゃん。
- 兄
- 何?
- 妹
- やっぱり今日な。学校。行きたくない。
- 兄
- あかん。風邪引いたわけでもないやろ。
- 妹
- 兄ちゃんはウチがどうなってもええの?
- 兄
- 大丈夫やって。
- 妹
- 何でそんなん言い切れるん?
- 兄
- 言い切れへんよ。言い切れへんけど、家に閉じこもってるわけにはいかんやろ。
- 妹
- 兄ちゃんは怖くないの?
- 兄
- 怖いよ。
- 妹
- じゃあウチも学校行くの休むし、兄ちゃんも一緒に休もうや。
- 兄
- あかん。
- 妹
- ユウコのやつ捕まったねんで、次はウチかもしれんやん。
- 兄
- ユウコは不用意やった。おまえは注意深くしてたら大丈夫や。
- 妹
- 兄ちゃんはショックじゃないん?
- 兄
- ショックや。仲間が捕まるなんて、そりゃあショックやで。
しかも捕まったのはおまえの同級生や。
でもユウコはやってはあかんことしてもうたんや。
ある意味では仕方ないことねんで。
- 妹
- 兄ちゃんは地上への憧れはないの?
- 兄
- あるよ。あるからこそ、上に行ったらあかんと思ってるよ。
ユウコはその気持ちを抑えられへんかったんや。
まり子、おまえもボーッと歩いてへんと、土掻きわけるの手伝え。
- 妹
- 嫌や。手汚れるもん。
- 兄
- 爪に土が入ってるぐらいが、可愛いねんぞ。
- 妹
- そんなん好きなの兄ちゃんだけや。
同級生の女の子は、みんな、手、綺麗綺麗やもん。
アンアンにも今年はピカピカ光る指で決まり!って書いてたもん。
- 兄
- おまえ、小3のくせにアンアン読んでんのか。
- 妹
- 近くの土の中に埋もれてるの、見つけてん。
- 兄
- くそ。この土めっちゃ固いな。おい、おまえも手伝え。
- 妹
- えー。
- 兄
- このままじゃ遅刻すんで。早く。汚れても学校で洗ったらええやろ。
- 妹
- なんでー?いつもそんな土ないやん。
- 妹はしぶしぶ兄を手伝う。二人はせっせと土を掻きだす。
- 兄
- あ。
- 妹
- 兄ちゃん、これ、コンクリートやで。
- 兄
- あれー道、間違えてもうたか?
- 妹
- もう何してるん。
- するとガガガガガ!と電動ドリルの音がする。
兄と妹は何にが起きているのかわからない。
- 「ちょっと何?」「えー何何?」とか二人は動揺している。
- するとガラガラガラ!とコンクリートの壁が崩れる音がする。
壁の向こうから現れたのは工事のおっちゃん。
- 工事
- ・・・おまえら、そんなとこで何してるんや?
- 兄妹
- う・・・ううう・・・・うぎゃー!!
- 場面が変わる。テレビのニュース画面。
- キャスター
- 速報です。またです。また地底人が現れました。本日の午前10時頃、2013年に開通予定の新地下鉄の突貫工事をしていた作業員の一人が地底人に遭遇した模様です。
- 画面にさっきの工事のおっちゃんが映される。
- 工事
- いやびっくりしたよ。コンクリの向こうに人がおるんやもん。
全然人と変わらへん。全身土で真黒っけっけやったわ。
しかも二人、大きい男と小ちゃい女の子や。捕まえたろと思うた時には、もう遅かったわ。物凄い勢いで土掻きわけて逃げて行ってしもうた。
いやおしいことしたわ。あそうそう。そういえば、女の子のほう、めちゃくちゃ手だけ綺麗やったわ。あれが妙に印象的やったねー。
- 泥だらけのテレビを見ていたのは、地底人兄妹。
- 妹
- 兄ちゃん!テレビ見て!ウチらの話出てるよ。やっぱり手、綺麗にしておいてよかったやろ。めっちゃ褒められてるねんで。
- 兄
- あほ!不謹慎やぞ!!絶対、他の仲間には内緒のことやからな。
俺らやってバレたら大変や・・・危なかった。
マジで危なかった。次見つかったらおしまいじゃ・・・
- 妹
- 兄ちゃん、やっぱりウチ、地上に出てみたい。
- 兄
- あほぬかせ!!
- 終わり。