- 噂が立つところにぼんやり現れるという、うわささん。
しかし今日はいつもと違う様子、白い純白のドレスを身にまとっています。
その傍らにはタキシード姿の男性。二人はとても幸せそうです。
- うわささん
- まさか、わたしにこんな日がくるとは夢にも思っていませんでした
- 男
- とても綺麗です。思っていた通り白いドレスが映えますね
- うわささん
- あの・・本当にわたしでいいんですか?
- 男
- あなたがいいんですよ
- うわささん
- だけどわたしはどこにでもいるありふれた・・うわさですよ
- 男
- 他愛もない悪戯のような噂から憎しみや争いを生む噂まで、世の中には数えきれないほどの噂がありますが、私にとってあなたは特別なうわささんなんです
- うわささん
- わたしはただ社員食堂や駅までの道のりで、ぼわーっと生まれてぼわーっと消えていくだけの存在です。それでもいいんですか?
- 男
- ・・懐かしいですね、覚えていますか?あの駅までの並木通り。
私達はあそこで出逢ったんでしたね
- うわささん
- ええ、この時期になると帰り道はイルミネーションがとても綺麗で
- 男
- 確かあの日は
- うわささん
- クリスマス・イブでした。女子社員さんたちが隣りのビルから出て来るパリッとしたスーツの男性の噂をしていて、そこでわたしがぼわーっと生まれたんです
- 男
- まさかその噂をしていた中の一人が実は男性の同級生で、すぐに意気投合してしまうとはね
- うわささん
- 女子社員さんたちは、あんな素敵な男性と巡り会ってクリスマスを一緒に過ごしたいと噂してました
- 男
- つまり噂が転じて本当になったというわけです。そこで私が生まれてあなたと出逢った
- うわささん
- はい
- 男
- ほら、ね。だから私にとってあなたは特別なんですよ、うわささん。あなたがいなければ、私は生まれなかった
- うわささん
- ・・嬉しいです。そんなこと初めて言われました
- 男
- 先程ご自分のことを、ぼわーっと生まれて消えていくなんて仰られてましたが
- うわささん
- ええ、いつもそうですから。噂というのは根も葉もないことが多いですし、いつ生まれたかいつ消えるかも定かではないんです。とっても不安定なんですよ
- 男
- 私と一緒になれば、あなたは生まれ変わります。もう、うわささんじゃない。消えていなくなることも二度とないでしょう。ね、良い事づくしでしょう?
- うわささん
- そっか・・
- 男
- どうしましたか?
- うわささん
- 運命の赤い糸ってこういうことをいうんですね
- 男
- 私はあなたのそういうところ、とても好きですよ
- うわささん
- そういうところ?
- 男
- ささやかな夢に溢れているところです・・・あれからちょうど一年が立ちました。あのときの女子社員さんとスーツの男性も、どうやら運命のお相手だったようですよ。もううわささんが生まれ変わっても良い頃です
- うわささん
- はい・・なんだかドキドキしてきました
- 男
- 私もです。さぁ、そろそろ式の時間です。いきましょうか、うわささん
- うわささん
- はい・・・・真実さん
- 鐘の音がきこえてきます。
ささやかな噂が真実になった合図です。
- END