- 電車の中。アメージンググレイスを歌う一馬。
未央、一馬の手をぱちんと優しくはたいて。
- 一馬
- ん?
- 未央
- 電車の中で歌わないでよ。
- 一馬
- 好きなんだ。この曲が。
- 未央
- 毎日河川敷で歌う位、ね?
- 一馬
- うん。
- 未央
- ずっと歌ってるんだもの。知ってる。
- 一馬
- なんか落ち着かないな、電車に乗ってこうやって君を眺めるなんて。
- 未央
- 話逸らさないで。
- 一馬
- 瞳は逸らしてないよ?未央♪
- 未央
- 電車に乗ってるのは私たちだけじゃないの!歌ったりベタ甘な台詞を言うものじゃないの!
- 一馬
- 未央!僕の事…
- 未央
- 好きよ?アメージンググレイスもあんたも!!でもね、TPOってのがあるでしょうが。
- 一馬
- TPO…?お笑い芸人かい?
- 未央
- もう、いいわよ!歌えばぁ?
- 一馬
- やったね!(鼻歌で再び歌う)
- 未央
- …ねぇ、一馬。
- 一馬
- 何?
- 未央
- どんな意味があるの?
- 一馬
- この曲?
- 未央
- うん。
- 一馬
- 実は…よく知らないんだ。でも、この曲に僕は救われたんだ。歌詞もよくわからない。けどこの曲には力がある。そう思ったんだ。
- 未央
- そっ。まぁ、私も一馬があの日河川敷でこの歌歌わなかったら私たちも出会わなかった訳だし
- 一馬
- え?
- 未央
- なんでもない!こっちみないで!
- 一馬
- (小さな声で)かわいいなぁ。
- ガタンゴトン、ガタンゴトン。少し携帯のいじる音とストラップかゆれる音。
- 未央
- 賛美歌なんだって。
- 一馬
- ん?
- 未央
- アメージンググレイス。
- 一馬
- サンミー…
- 未央
- うまいパンじゃなくって!賛美歌!神さまをほめたたえる歌のこと!
- 一馬
- 本当?
- 未央
- ん。(携帯を差し出し)
- 一馬
- 本当…だ
- 未央
- ね?
- 一馬
- 未央!!!
- 一馬、未央を抱きしめる。周りの乗客が「なにあれー?」等と声をあげる。
- 未央
- ちょっと!ここ電車…あんた何泣いてるの?
- 一馬
- 僕は…神さまに歌ってたんだ。そしたら君が僕を見つけてくれた。神様が僕達を結びつけてくれたんだ!あははっこんな嬉しい事ないよ!
- 未央
- あんた本当…楽観的よね。
- 一馬
- いい!それで!そのおかげで君に出会えたんだ。
- 未央
- 一馬…。
- 一馬
- 十 百 千 万 億 兆 京 垓 穰 溝 澗 正 載 極 恒河沙 阿僧祇 那由他 不可思議 無量大数この数列を一体いくらの人間が口にすることができるのか甚だ(はなはだ)疑問である。ばい、どこかの誰かさんー。
- 未央
- はぁ?
- 一馬
- 今の意味分かった?
- 未央
- わかったら凄くない?で意味は?
- 一馬
- 単位だよ、単位。十 、百、 千、 万 、億 、兆、 京 …
- 未央
- いざ言われると、わかんないもんね。呪いの呪文だと思ったわ。
- 一馬
- 未央がもっと素直になれーの呪文だと?
- 未央
- 馬鹿か!
- 一馬
- でもアメージンググレイスやこれみたいにさ、色んな事をわかっていこう?これからも二人ずっと。
- 未央
- ずっと…ずっと?
- 一馬
- うん、ずっと。皺くちゃのじぃちゃんばあちゃんになっても。
- 未央、一馬のほっぺにキス。
- 未央
- いいんじゃない?嫌いじゃないわ。
- 一馬
- 僕の魔法がきいたみたいだ。
- 車掌
- 次はー新大阪ー新大阪ー
- 扉が開く音。
- 一馬
- 内容変更、だね。
- 未央
- え?
- 一馬
- 彼女の紹介から、お嫁さんの紹介に。母さんも父さんも喜ぶよ。
- 未央
- つまりAmazing Grace!(驚くべき恵みよ!)ね?
- ホームに流れるのはアメージンググレイス。二人を祝福しているようだ。
- END。