- 賑やかというよりは、うるさいと言った方が似合う音の数々。
様々なゲーム機器の音が重なり合って聞こえてくる。
ゲームセンターらしい。
レバーの音がガチャガチャ。音に合わせてキックやパンチの音が聞こえる。
格闘ゲームらしい。
派手な音楽と共にレバーの手が止まる。
「ゲームオーバー」らしい。
- 女
- (溜息を付いて)もう・・・・お金崩しておけば良かった・・・・・。
- 椅子から立ち上がり、少し歩いて両替機に札を入れるとジャラジャラと小銭が出て来る。
- 男
- お客さん・・・・・・・また、あのゲームですか?
- 女
- え?・・・・・・・・ああ、そうです。
- 男
- よっぽど、好きなんですねえ・・・・・他のゲームもあるのに。
- 女
- (誤魔化し笑いを浮かべ)・・・もしかして私、覚えられてます?
- 男
- まあ・・・・・・・・最近よく来られるし・・・・・・。
女の人、珍しいですから・・・・・・・・なんか、すみません。
- 女
- (苦笑いしながら)・・・・・・結構、来てますもんねえ、私。
- 男
- あのゲーム・・・・最初は対戦できるように何台も置いてたんだけど、次から 次へと新しいの出るから、今ではあれだけです。
- 女
- そんなに、流行ってたんですか?
- 男
- まあ・・・・・今までにないようなキャラクター作ったりとかでウケて。
っていうか・・・・・・お客さん・・・・・・・実はそんなにゲームしない人とか?
- 女
- ええ・・・・・・まあ。
ちょっと・・・あのゲームに興味持って、ここのお店ならまだあるって聞いて。
- 男
- ああ・・・・・・・ほとんどのゲーセンではもう置いてないでしょうね。
そろそろ、あのゲーム撤去しようかって話も出ててて・・・・・・・
- 女
- (遮って)こ・・・・・困ります!!
- 男
- え・・・・・・?
- 女
- ダメ、絶対にダメ!!・・・・・・です。
- 男
- いや・・・・勿論、こうやってお客さんが来てくれるから延長しようかなって。
- 女
- ああ・・・・・・・良かった。
- 男
- そんなに、好きなんですね
本当言うと・・・・・オレも、このゲーム好きだから、そういうの嬉しくって・・・・。
- 女
- このゲームの・・・・・・どういうところが、好きなんですか?
- 男
- うーん・・・・・やっぱり、キャラクターが面白いとこかなあ。
特に、このおばあちゃんが敵のエネルギーを吸い取って一定時間、カワイイ女の子に若返っちゃうとか他にないでしょ。
- 女
- ・・・・・・・・・ありがとう。
- 男
- え?
- 女
- あの・・・何て言ったらいいのか・・・・その若返った女の子の声、私なんです。
- 男
- ええっと・・・・・・・・「声優」さん・・・・・・とか?
- 女
- そうなんです・・・・初仕事って、このゲームの吹き替えだったんです。
- 男
- え!?そうなの!すごい、ちょっと言ってみてセリフとか!
- 女
- そんな・・・・・こんな所で恥ずかしいです。
- 男
- ですよね・・・・・・・ああ、だから・・・・このゲームを?
- 女
- 実は、最近・・・・ちょっと、行き詰まってて・・・・・・・・。
そんな時に初仕事のこと思い出して・・・・・やっとここ見つけたんです。
でも・・・・自分の声、聞こうにも・・・・・・ゲーム下手だから、登場してもすぐに負けて・・・・全然、聞けないし。
だから、すぐなくなるの困るんです・・・・・・でも、私が声をあてたキャラクターを気に入ってくれてる人に出会えるなんて・・・・・良かった。
- 男
- あの・・・・・これからも続けていくんですよね・・・・・・仕事。
- 女
- 自分でも、よく分からないんです・・・・・・。
- 男
- あの・・・・・・あなたの「初仕事」・・・・良かったら一緒に聞きません?
- 女
- え?
- 男
- 商売柄ゲームなかなか上手いんですよ・・・・・。
必殺技とか、勝ったときの決めぜりふ・・・・・思う存分、聞いて下さい。
- 女
- ・・・・・いいんですか!?
- 男
- もちろん・・・・・・もし例え、負けてもずっとコンチニューしてラストステージまで 行くんで・・・・・・・絶対。
だから・・・・・・あなたも・・・・・無理しなくていいけど「コンチニュー」・・・・続け るってことも考えて下さい。
- 女
- ・・・・・・・・・・はい。
- 男
- じゃあ、行きますよ・・・・。
- 男、ゲームを始める。賑やかな音楽と共に。
- おわり。