まっくら闇。なにも見えない。
声が聞こえる。
おい、ちょっと待って。
沈黙。
おーーーーい。おい。あれ?なに?これなに?どういうこと?
なに?
わっ!急に来るなよ!なんだよ!
沈黙。
ちょっと!黙らないでくれる!?
びみょう…
おぉ…
なに?なんか、慌ててんの?なんか、焦ってる?
いや、ちょっと、どこ?お前、いるの、どこ?
は?
いや、だからさ、ちょっと、いや、もっと、しゃべってくれない?
え、私のいる場所がわかりたいの?
そりゃそうでしょうよ!……あ、ごめん、ちょっと、しゃべって。声、声、くれ、声を。
わかるわけないでしょう。
沈黙。
なんで?しゃべれば、ほら、声のする方にさ、向かっていけばさ。
言うまでもないけどさ。
じゃあ言わないでくれる?
やってるでしょ、さっきから。
なにを?
とぼける意味わからないけどさ。声がする方、向かってるでしょ?さっきから。
そうだけど?なにか?…いや、これは、お前も動くから!
動いてないよ!
えぇ!
沈黙。
うそ。まったく?
そう。
え、なにこれ?俺の感覚がおかしくなってる?だって、え、動いてないとかありえないから。
信じるも信じないもあんたの自由だけど。
そんな言い方はやめて!こわいだろう、それは。
なんで?
沈黙。
感覚的に?こわい?ちがう?ちがわない?どう?返事に困る?答えようと思えない?もう関わりたくない?そんなことない?そんなことでもない?
沈黙。
こうやって、沈黙してると、俺はひとりで、ただただいるだけ、って感じになる。お前は本当にいるのか、そこに。
いると思うけど。
さっきからさ、俺は横になってるわけ。仰向けになって、背中を下にして、横になってんの。
それで?
わかんなくなるわけ。目に見えるものがなくて、こうやってしゃべってるのも、相手がいるのかどうか。
やだなぁ、それは。
お前はちがうの?
ちゃんと話はきいてるつもりだし、しゃべるかぎりは伝えたいことがあるんじゃないかな。
ふーん。
まっくらでしょ?今。
うん。
それが当たり前になっちゃいけないっていうか。
どういうこと?
今、当たり前になってない?
なにが?
例えばまっくらなこの状態。
そんなことないよ。
本当に?
ああ。
本当の本当に?本当の本当の本当に?本当の本当の本当の本当に?
意味がわかんないよ。
本当に?
人のことそんな疑って、なにがしたいんだよ。
不安なだけ。不安を押し付けちゃって申し訳ないけど。
沈黙。
俺は、あきらめないよ。こうやって、お前と話してるかぎりは、あきらめない。
なにをあきらめないの?
いろんなことだよ。なんかわかんないけど、いろんなこと。
わかんないっていうのは、ダメな気がするけど。
沈黙はつづく。おわり。