- 車道を走っていく車の音と行き交う雑踏に紛れて、溜息を付く女。
- 男
- 本日は、お疲れ様でした。
- 女
- お疲れ様でした・・・・・・。
- 男
- やっぱり・・・・・緊張しましたか・・・・・しますよねえ。
- 女
- ええ・・・・・・予想外の質問ばかりで・・・・自分を動物に例えると何ですか?
って・・・・・何なんですか・・・・・あの質問。
普通、エクセルとかのスキル聞くとかなのに・・・・あんなの初めてです。
- 男
- ですよねえ・・・・・・・事前に言ってくれたらいいのに。
- 女
- でも、事前に言ったら・・・・・・・きっと意味ないんでしょうね、意味分からないですけど。
- 男
- ですよね・・・・・・・・あの、良かったらコーヒー飲みませんか?
- 女
- え?
- 男
- 缶コーヒー、で何ですけど・・・・・・・(小銭を入れる)どうぞ選んで下さい。
- 女
- はあ・・・・。
- 女、自動販売機でボタンを押してガタンゴロゴロと缶コーヒーが出て来る。
同時に、ピピピと音がして電子音のファンファーレの様な音がする。
- 2人
- え!?
- 男
- 当たった・・・・・んじゃないですか!?
- 女
- 当たったら・・・・・・・・もう一本貰えるって「アレ」ですか?
- 男
- そうです、そうですよ・・・・・「アレ」ですよ!
- 女
- ・・・・・・・わあ!
- 女、思わず自販機のボタンを押す。ガタンゴロゴロ。
- 女
- どうぞ。
- 男
- え?
- 女
- 二本も缶コーヒーは、いいですから。
- 男
- でも・・・・・。
- 女
- (遮って)いえ、お裾分けです。
- 男
- どうも・・・・・・・・(受け取って)・・・・・・ブラック。
- 女
- え・・・・・・ダメですか?
- 男
- いえ、いただきます。
- 女
- こちらこそ・・・・・・いただきます。
- 缶コーヒーをプシュッと開ける音。
車道を走っていく車の音と雑踏。
- 女
- (飲んでホッと一息)・・・・・・あれ、飲まないんですか?
- 男
- いえ・・・・頂きます・・・・・・・(飲んで)・・・・・苦い・・・・・・でも、美味い!?
- 女
- そのブラックコーヒー、美味しいでしょ。
- 男
- いけますね・・・・・これ。
- 2人、少し笑う。
- 2人
- ・・・・・・・・・・・あの。
- 女
- あ・・・・・どうぞ。
- 男
- いえ・・・・・どうぞ。
- 女
- あの・・・・・・いつも、こうなんですか?
- 男
- え?
- 女
- いつも、缶コーヒーご馳走されるんですか?
面談の付き添いで・・・・・・・ただの派遣だし・・・・・それに、まだ仕事決まっ た訳じゃないのに。
- 男
- 初めてです・・・・・・あの、ご迷惑でしたか?
- 女
- いえ・・・・・迷惑とか、そんなんじゃなくって。
さっきの面談で緊張したから・・・・・・気を使わせたのかなあって。
- 男
- たぶん・・・・・・・一番、緊張してたの僕です。
- 女
- は?
- 男
- 実は・・・・・・今日の案件、部署替えでの初めての仕事なんです・・・・
だから、絶対成功させるって意気込んじゃって・・・・・・。
- 女
- なのに、質問があれですもんね。
- 男
- はい・・・・・頭、真っ白ですよ。
- 女
- (少し笑って)面接してるの、私なのに。
- 男
- (苦笑い)ですよね・・・・・・・。
- 女
- 大丈夫です・・・・・・きっと、上手く行きます・・・・って私が言うの変ですけど。
当たりは出るし・・・・・なんか今日はいい日になる・・・・・そんな気がします。
- 男
- 僕も、そういって貰ったら・・・・・そんな気がしてきました。
正直言って、営業とか抵抗あったんですけど、このブラックコーヒーみたいに 好きな仕事になりそうな・・・・・そんな気がします。
- 女
- (少し笑って)良かった・・・・・。
- 男
- 有難う御座います・・・・・・コーヒーで何ですけど、乾杯。
- 女
- こちらこそ・・・・・・乾杯。
- 終わり。