- 図書館の読書スペース。
図書館での会話なので、最初はこそこそ話している。
- 男
- なぁ
- 女
- ん
- 男
- ちょっとこれ見て
- 女
- 水滸伝読んでるんだから静かにしてよ
- 男
- この図鑑のタイトル言ってみて
- 女
- (面倒くさそうに)宇宙?
- 男
- そう!宇宙!
- 女
- ちょ、声がでかいよ。ここ図書館だよ
- 男
- 宇宙、知ってる?
- 女
- 改めて言われると、漠然としかわかんないけど
- 男
- お前宇宙のこと知らないのにこの大宇宙に住んでるの?
- 女
- 大宇宙って何よ
- 男
- 宇宙ってさ、地球から全部は見えないけど、空一面星で埋め尽くされるぐらい星があるんだぜ
- 女
- でしょうね。痛!鼻。鼻に図鑑の角あたってる
- 男
- なのに地球に住む僕らの目にその光が吸い込まれるまでに何らかの理由で夜空の暗闇に同化してしまう!つまり宇宙が膨張をやめたとき宇宙は真っ白な世界になるという暗示なんだ。わかるかな?原理を説明するとね…!(台詞中も女は「痛」「やめて」「ちょっと」等と言い、図鑑を押し付ける音がしている)
- 女
- 痛いって言ってるだろ!あほ!
- 二人の荒い呼吸。
- 男
- …ごめん、興奮しちゃった
- 女
- …どうしたの
- 男
- 宇宙の最期を考えたら夜も眠れなくて。でも、僕見つけたんだ
- 女
- 何を?
- 男
- オルバース教って言ってね。宇宙の真理を求める場所さ
- 女
- え。ちょっと何の話?
- 男
- 『(片言で)もうちょっとで君も宇宙の果てにたどり着くだろう』ってエッジワース・カイパーベルト先生にも言われたんだ」
- 女
- 誰?
- 男
- ここに申し込み用紙がある
- 女
- いや、入んないから
- 男
- 北方謙三の言葉は頭に入るのに、エッジワース・カイパーベルト先生のお言葉は耳に入らないというのかい!?
- 女
- 入んないわよ。痛!だから宇宙の角が鼻に!痛い!
- 男
- 鼻には入るというのに、耳には入らないと言うのか!
- 女
- 誰が上手い事言えっていったのよ!痛たたた!
- 吸い込まれたような音。
- 男
- あ
- 女
- え
- 男
- 宇宙が…君の…鼻に
- 女
- 入ったの?え?うそでしょ?図鑑どこやったのよ?
- 男
- そうか、そうだったのか…僕はわかったよ。宇宙の最期は君の鼻に吸い込まれていくんだね
- 女
- 違う。違うよたぶん。
- 男
- 宇宙の真理がわかってすっきりしたよ
- 女
- 私は全くすっきりしないんだけど
- 男
- でも1つだけ心配なことがある
- 女
- 何
- 男
- きみがこの図書館から出るとき、出口のセンサーが反応するんじゃないかってことだよ
- 女
- あ
- 男
- 怖いね。宇宙の果てよりも、怖いことだよ
- 女、駆けていく。遠く、ブブーとブザーの音がする。
- 女
- (遠くで)なによこれ、なんなのよ!
- 男
- きみはこの図書館から一生出られないかもしれない。でも大丈夫。この図書館には、夜空の星と同じく無数の本がある。きっと飽きることは無いよ
- 女、何度も出ようとするため、ブブーとブザーの音が続けて聞こえる。
- 了