- 女
- 「私が育った家では・・・・夏の季節、いつも『緑のカーテン』があった。」
- ベランダのガラス戸をガラリと開ける音。
近くに公園でもあるのか子供達の遊ぶ声に混じって蝉の鳴く声が聞こえてくる。
- 男
- おお!育ってるねえ・・・・・・ゴーヤ。
- 女
- うん・・・・・・・こんなに立派に育つなんて!
- 男
- そろそろ・・・・・・なんじゃない「収穫」。
- 女
- ・・・・・・そうかも。
- 男
- おお・・・・・・・・・で、どうするの?
- 女
- じゃーん。ハサミでツルの部分を切るだけ。
- 男
- それだけ?
- 女
- そう、それだけ。
- 男
- 簡単、なんだなあ・・・・・・最初はちょっと大変だったけど。
- 女
- 大きいプランターとか、運んでもらったりしたもんねえ。
- 男
- 運ぶのはいいんだけど、ツルが絡まる様にする・・・
この木で出来たアミアミの盾っていうか・・・・・
壁っていうか、なんだっけこれ?
- 女
- ああ「ラティス」。
- 男
- そう、「ラティス」ね・・・・・・・倒れない様にスタンドつけたりしたのに、全然安定しなくって・・・・・・正直まいった。
- 女
- マンションのベランダって、なんか斜めになってるもんね。
- 男
- 焦ったなあ・・・・・・・全然立ち上がらないしグラグラで・・・・・・・・・。
- 女
- ほんと・・・・・ヒロシくんの慌てようったら。
- 男
- ヤスコちゃんだって、焦ってたじゃない。
- 女
- (笑いながら)まあね。
- 男
- 結局、かまぼこ板・・・・・何枚か挟んだりして解決したり。
- 女
- あの時は、ヒロシくんがいて本当に良かったって思った。
- 男
- 大袈裟だなあ・・・・・・ってホントにそう思った?
- 女
- うん・・・・・・今でも思ってるよ。
- 2人、少し笑う。
- 男
- でも・・・・・ゴーヤってすごいんだなあ。
こうやって、日当たりいいとグングン育つし・・・・・
日よけにもなるなんて思いもしなかった。
- 女
- 暑さもしのげて、光熱費削減で一石二鳥、なんてね。
- 男
- こう言うのってさ・・・・当たってるか分からないけど、すごいカーテンみたい。
- 女
- (笑って)そう・・・・・この日よけ「緑のカーテン」って呼ばれてるんだって。
- 男
- 「緑のカーテン」かあ・・・・・・・上手いこというなあ。
こういうの、やりたいって言い出したとき驚いたけど、案外いいもんだね。
- 女
- (少し笑って)良かった。
- 男
- 前から、やりたいって思ってたの?
- 女
- やりたいっていうか・・・・・・小さい頃から決めてたんだ。
- 男
- え?
- 女
- 私の家・・・・・・お母さんがこういうの大好きで、小さい頃からこうやって緑が あって、いつか自分も結婚することになったら、そうしようって思ってた。
- 男
- そっか。
- 女
- だから・・・・・結婚決めたとき、「緑のカーテン」を作ろうって・・・・。
でも・・・・・・・こんなに立派に育ってくれるなんて・・・・・本当良かった。
- 男
- うん・・・・・・ほんと、良かった・・・・・・色々。
- 女
- え、なあに?
- 男
- なんでないよ・・・・・・ほら、収穫しちゃおうか。
- 女
- うん・・・・・・・あ、そうだそこの新聞紙とって。
- 男
- (渡して)どうするの?
- 女
- ゴーヤの・・・・・このイボイボが潰れないように、新聞紙でくるむの。
初めて出来たんだもん、お裾分けで皆のとこ持っていこうと思って。
- 男
- ね・・・・・・・・一緒にやっていい?
- 女
- うん・・・・・・・こうやって実の根本のツルの部分を切り取るんだよ。
- パチッ。とハサミで切る音。
歓声をあげる男。
- 女
- 「これからも、夏の季節に『緑のカーテン』がある家で私は暮らしていく・・・・ そういつまでも。」
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