- 女
- 有難う御座いましたー、お気を付けて。
- ドアを閉める音と共に、ドアの上部につけたベルがカランコロンと鳴り響く。
フーッと息をつく女。カラコロと下駄の音を鳴らして戻ってくる。
流れていた有線放送が止まり、食器やグラスを片付ける音が聞こえる。
- 男
- お疲れ様。
- 女
- お疲れ様です・・・・・・お祭りだけあって、忙しかったですねえ。
- 男
- 暑いでしょ・・・・・浴衣は。
- パタパタと内輪を扇ぐ音。
- 女
- そ、そんな有難う御座います・・・・・・大丈夫です、扇子持ってますから。
- 女、少し慌てて扇子を広げて扇ぐ。
- 男
- 浴衣って、僕らから見たら涼しそうだけど暑いんだよねえ、きっと。
- 女
- ええ・・・・・・・まあ。
- 男
- 浴衣イベントって初めてだから、分からなかったけど、盛り上がるね。
お店も活気が出るっていうか・・・お客さんも喜んでくれたし。
本当・・・・有難う。
- 女
- い、いえ・・・・・そんな。
- 女、思わず強く扇ぐ。
- 男
- 冷房、きつくしようか?
- 女
- い、いえ・・・・・・大丈夫です!
- 男
- でも・・・・・・・。
- 女
- (遮るように)お店も終わったし、エコですよ、エコ。
- 男
- もし着替え持ってきてるんだったら、先に上がって。後、やっとくし。
- 女
- いえ・・・・・・着替えとか、持ってきてなくって・・・・これ、片付けちゃいますね。
- 男
- ああ、いいよ・・・・・・じゃあ、冷たいものでも飲んで。
- 女
- でも・・・・・・・・。
- 男
- 折角の綺麗な浴衣・・・・・・汚したら大変だし、一息いれて。
- 男、女にグラスに飲み物を注いで出してやる。
- 男
- どうぞ。
- 女
- じゃあ、お言葉に甘えて・・・・・頂きます。
- 2人、少し笑う。
- 男
- 今日、休みだったのに、出て貰ってごめんね。
本当、助かったよ・・・・・・シフト代わったんだって?
- 女
- お祭りですからね・・・・・・。
- 男
- だよなあ・・・・・・バイトで浴衣着るより、デートで浴衣着たいよなあ。
なんか・・・・・・・・・ごめんね。
- 女
- え?
- 男
- 本当は、お祭り行ったりしたかったんじゃないかなって・・・・・・・。
- 女
- いえ・・・・・・・全然、そんなことないです!
人混み苦手だし、でも・・・・お祭り気分ないのも味気ないっていうか、浴衣着れるの嬉しいっていうか・・・・・なんていうか・・・・・・あの・・・・・あの・・・・。
- 男
- ・・・・・・・・・・?
- 女
- 本当は・・・・・・無理言ってバイト代わってもらったんです・・・・・あたしが。
- 男
- え?
- 女
- 店長に、浴衣姿・・・・見て貰いたくて・・・・・。
去年・・・・・・・浴衣姿の女の子っていいなって言ってたから。
浴衣イベント提案したのも・・・・・・あたしなんです・・・・・すみません、なんか。
- 男
- (少し笑って)いつもお祭りの時って、こういう商売だから雰囲気さえも楽しむ って出来なかったんだけど、久し振りにそういうの思い出せた。
有難う・・・・・すっごく似合ってるよ、本当。
- 女
- あ・・・・・・はい・・・・・本当ですか!?
- 男
- うん、似合ってる。
- 女、嬉しさを隠しきれないのを誤魔化すように、扇子をパタパタと扇ぐ。
- 男
- やっぱり、冷房・・・・・・。
- 女
- いえ・・・・・・ちょっと嬉しすぎて体温上がっちゃっただけなんです・・・・・・あ。
- <男、思わず笑うと、女もつられて苦笑い。
- 男
- じゃあ、扇いであげる。
- 女
- で・・・・・でも・・・・・そんな。
- 男
- エコでしょ・・・・・・エコ。
- 女
- は・・・・・はい。
- 男、恥ずかしそうな中でも嬉しそうな表情を浮かべた女に笑顔で団扇で扇いでやる。
パタパタパタ。
- 終わり。