浜辺。
20代後半の女性が、コンクリートの突堤に座り、一人で海を眺めている。
緩やかな風にかさつくビニール袋には、つまみや酒が入っている。
少し乱暴に、ビニールから缶を取り出す女性。
傍らには、既に空になった空き瓶が置いてある。
おーい。こんなとこにいたんだ。
・・・。
ごめんごめん。待った?
・・・。
あ、ほら、お前の好きなお菓子買って・・・あ。同じの、買ってたか。
うるさい。
え。
・・・あれ。(指をさす)
少し離れた突堤に、少年たちがたむろしている。
ああ、若いんだから。仕方ないよ。
ガキがつるんで、歌って叫んで。
高校生かな。
中学生かもよ。最近の子供はデカイから。
花火が上がる。
あーあ、怒られるな。
こんな明るい中で花火上げたって、何にも見えないのに。
別に花火っていうか、音立てたいだけでしょ。
そんなに気づいて欲しいわけ?
気づいて欲しいっていうか・・・。
馬鹿みたいに大声出して、花火打ち上げて、笑い合って。
<また花火が上がる。
何が嫌って、あいつら、笑ってないのよ。笑ってるけど、笑ってないの。
口を開いて、声張り上げてるだけで、一つも楽しそうじゃない。
それが、すごく、気持ち悪い・・・。
気持ち悪いって・・・あ!お前、もうそんなに飲んでたのか!
だって遅かったんだもん。・・・う、おええ。
うわ、ちょっと、お前なあ!
波の音が静かに聞こえてくる。
久しぶりに会うとこれだからなあ。
ごめん。
別にいいよ。しかし、変わらないね、ここは。
うん。ほら、あそこのテトラポットの言葉、悲しくない?「アブナイ・キケン」って、もう、誰も泳がないのにね、こんなとこ。
挟まれちゃったからなあ、新しい海水浴場に。
でも、こっちの方が好きだな、私は。ここに来るまでの道も、情緒あってさ。
あのやたら耳のでかい犬、見た?
見た見た。元気そうだったね。あと、マンションから、聞こえる、親子喧嘩の声とか。
あの家、いっつも喧嘩してるよな。
なんにも変わらない。ちっさな虫が、私じゃなくて、あんたの頭にばっかりたかってくるのも。
うわ、ほんとだ。ああ、もううっとうしい。(払いのけようとする)
ねえ、もうすぐ日が沈むね。
眩しくない太陽って、なんか偽物みたいだな。
うん。
・・・。
・・・海は、どうして陸に上がりたがるんだろう。
うん?
海はさ、どうして陸に上がりたがるんだろう。ああやって、何度も何度も。
一緒になりたいからじゃない。
うわ、ロマンチック(きもっ)。
違う?
馬鹿みたい。それで岩は削れるし、荒れた時なんて、陸も汚されて、沢山の人が辛い思いして・・・。いい迷惑よ。
少しの沈黙。
<足、冷やそっかな。(砂浜に入っていく)
え、ちょっと、やめときなよ。砂、汚いでしょ?ゴミだらけだよ。
昔からそうだっただろ、ほら。来なって。
足を海水に浸ける二人。
あー。気持ちいいー。
冷たい・・・。でも、以外と水は綺麗かも。
台風の後の海ってさ、きったないんだ。もう、泥だらけ、瓦礫やゴミがたっくさん浮いてて。
そうなんだ。
それ見たとにさ、ああ、こいつもちゃんと痛い思いしてるんだなあって思ったんだ。陸を傷つけた分、海だって苦しいんだって。
そうかな。
多分。
言いたいことはわかるけど、納得できない。
俺もだよ。でも、それでも海は陸に上がりたがる。それはきっと、海が、陸を好きだからだと思うんだ。
遠くで聞こえる電車の音。
・・・暗くなってきた。
帰る?
まだまだ。酒もつまみもたっぷり買ってあるから。
じゃあ、飲むか。
うん。
さっきは、お前の嫌いなものの話を聞いたから、代わりに俺の好きなものの話をするよ。俺が好きなのは、あの、遠くで聞こえる電車の音。ガタンゴトン、ガタンゴトンって、本当にそう聞こえる。これが、昔からずっと好きだったんだ。
私も、好きだった。昔から。
よし、乾杯しよう。
なにに?
陸と海に。
(微笑んで)海と陸に。