- 雨が降りしきる音。
窓をバタンと閉める音。同時に雨音は遠くなる。
- 男
- (大きな溜息をつく)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
- 女
- あの・・・・お疲れ様です・・・・・。
- 男
- え・・・・・・ああ・・・・・・お疲れ様。
今日も残業で、疲れちゃったでしょ・・・・・大丈夫?
- 女
- はい、大丈夫です。
- 男
- そう、良かっ・・・・・。
- 女
- (遮るように)すみません。
- 男
- え?
- 女
- あの・・・・・・私、まだ仕事覚えきれなくて。
全然、お役に立てなくって・・・・・・すみません。
- 男
- え・・・・・いや、そんなことないよ。
まだ、こっち来てそんなに経ってないじゃない。気にしない、気にしない。
- 女
- 気にします・・・・・・・・・。
- 男
- え?
- 女
- だって・・・・・・さっき溜息ついてたし・・・・・・。
- 男
- え?
- 女
- しかも、大きな・・・・・・・・。
- 男
- (少し慌てて)違う違う・・・・・・いや、雨止まないなあって。
ここ一週間・・・・・・ずっと雨だし・・・・・・・溜息つきたくもなるじゃない。
そういうのじゃないから・・・・・・・気にしない気にしな・・・・・。
- 女
- (遮って)気にします・・・・・・・!
- 男
- ・・・・・・え?
- 女
- この連日の雨・・・・・・・・・私のせいなんです。
- 男
- え?・・・・・・え?
- 女
- 私・・・・・・実は「雨女」です・・・・・・・!
- 男
- え・・・・・・・そうなの。
- 女
- ええ・・・・・たぶん・・・・・・・きっと。
- 男
- いや・・・・・「きっと」なんだよねえ?
- 女
- でも・・・・・・・・・。
- 男
- ああいう「雨女」や「雨男」って・・・・・・・大事なイベントに限って雨が降るから言われるっていう・・・・あれ、だよね。
なんか・・・・デートとか、コンサートとか・・・・・・・そういう「特別なイベント」っていうの?台無しになって落ち込んでる・・・・・とか?
- 女
- 逆・・・・・・なんです。
- 男
- え・・・・・・?
- 女
- なんか・・・・・・雨になったらいいのにって、思ったらずっと雨ばっかり降っちゃって・・・・・・・・・。
- 男
- 逆だ・・・・・新しいっていうか何ていうか・・・・・希望通りになってるよね。
なんか、落ち込んでる風に見えるけど・・・・・むしろ、喜んでいいんじゃない?
僕は・・・・・・どっちかっていうと・・・・・・困るけど。
- 女
- ですよね・・・・・・・私も困ります。
- 男
- え?
- 女
- ちょっと、思っただけなのに・・・・・・・本当に降っちゃって。
全然止んでくれないし・・・・・・・正直、困るというか怖いです・・・自分が。
- 男
- 考えすぎじゃないかな・・・・・・・たまたま、そうなっちゃっただけで梅雨だし。
せっかく、降って欲しいって思ったんだから、この偶然喜んだらいいよホント。
- 女
- 喜べません・・・・・・・・。
- 男
- え?
- 女
- 好きな人に・・・・・・・迷惑かけちゃったから。
- 男
- そ・・・・・そうなんだ・・・・・よく事情分からないけど。
ホント・・・・・・・元気出して・・・・・・・僕で良かったら、話聞くし・・・・・うん。
- 女
- 好きな人・・・・・・・片想いなんですけど、今度・・・・・・彼女さんと野球観に行くって嬉しそうに話してたから・・・・・・・つい、妬いちゃって雨降ればいいって思っちゃったんです・・・・・・・そしたら、こんな調子で。
そういうの最低ですよね・・・・・・・・。
- 男、何やら辺りを探している。
- 女
- あの・・・・・・・どうしたんですか?
- 男
- ちょっとね・・・・・・・・・。
- 箱ティッシュを何枚か取り出して、セロテープを引っ張ってティッシュを丸めて留めたりしている。
最後はマジックを取り出して書いている。
- 女
- あの・・・・・・・・それ。
- 男
- そう・・・・・・・・てるてる坊主。
僕・・・・・・実は「晴れ男」なんだ。
- 窓辺に、てるてるぼうずをくくりつける。
- 男
- よし・・・・・・出来た。
- 女
- でも・・・・・・・。
- 男、窓をがらりと開ける。雨はまだ降り続いている。
- 男
- いい、お天気になりますように。
- 雨は止まない。
- 女
- 先輩・・・・・・・・あの・・・・・・・・。
- 雨がやんだ。
- 女
- わあ・・・・・・すごい!
- 男
- でしょ。
- 2人、窓の外の向こうにかかる虹を嬉しそうにしばらく眺めている。
- 終。