- ぐるぐるぐると何かが回る音がする。
(会話中も後ろでずっと微かになっている。)
- まり子
- ねーねー。
- ○○○
- ・・・
- まり子
- ねーねー。
- ○○○
- ・・・何?
- まり子
- (興味津々な様子で)自分、何してうん?
- ○○○
- あ?見たわかうやろ。回っとんねん。
- まり子
- ふぅん・・・自分、すごいな、ウチ、自分みたいにぐるぐる回れへん。
- ○○○
- 当たり前や。ええか?実はな。ここだけの話、この回転は俺にしかできへん回転ねん。あんな。ちょっと見てもうたらわかうねんけど、(少しだけ回転音が変わって)普通のやつやったらここをこうやってこうやってこういう感じで回転すんねんか?でも俺はちゃうねん。見て。この回転見て。(さらに少しだけ回転音が変わって)ほら。わかうか?俺はここの回転をあえてこうやってこうやってこう回転させることにより新しい形の回転を発明してもうたねんか?
- まり子
- あ!ウチ、ハツメイ知ってう!ハツメイ=エジソンや!
- ○○○
- 自分、ガキのくせにエジソン知ってるんか?かしこ(賢い)やな。
- まり子
- 要はあれか?自分、エジソンみたいなもんか?
- ○○○
- え?あ、うん・・・せやな。エジソンぐらい偉いかと言われれば、そうやと頷かざるを得んのは、まぁ否めんこともないことやな。
- まり子
- うわーエジソンみたいなもんなんや!めっちゃカッコいい!!
- ○○○
- 何を今更。
- まり子
- なぁなぁ。ウチ、聞きたいことあんねんけど聞いてもいい?
- ○○○
- おお。まぁ今日は気分がええし、答えてやらんこともないこともないけど?
- まり子
- あんな。あんな。自分、目回らへんの?
- ○○○
- (偉そうに)あーうん。そうきた?うん。まぁそうくるやろなぁとは思ってはいたけど。せやな。うん。いい質問ですね。うん。まぁ簡単に言うとやな。俺が回ってういうより、もうあれ。世界が回ってう感じやね。せやし目、回すんはどっちかというと、あれやね。うん。世界やな。
- まり子
- へー!なんかあれやな。自分、イミシンな存在ねんなぁ。
- ○○○
- (若干引いて)自分、ますますカシコやな。普通5歳児が意味深な存在とか言えへんで。
- まり子
- えっへん。ウチ、幼稚園じゃあカシコのまり子、言われてんねんで。
- まり子
- なぁなぁ。もっとすごい回転、ウチに見してや!
- ○○○
- ・・・しゃーないのぉ。よっしゃ。今日は特別なことやしな?
- まり子
- え!見してくれるん!?
- ○○○
- おお。これから見せるんは、いまだかつて誰も成しとげることができひんかった伝説の回転やぁ。しっかり目に焼付けとくんやで。
- すると回転音が、いままでにない感じで鳴り始める。
- まり子
- うわぁー!!めっちゃ回ってう!
- ○○○
- まだや。ここからや。ここからの回転がやばいんや。この先の回転で何人もの命が失われてんねやぁ。油断は禁物のことやでぇ。
- さらに回転音が激しさを増す。
- ○○○
- いける・・いけるいけるいける!!いけるでぇぇぇ!!!!!!!
- しかし突然、「グキ!!」と骨の折れるような音がする。
- ○○○
- (悲痛な叫び)あう!!
- 徐々に回転音がへろへろと弱まっていく。
- 時間が流れる。
トラックがやってきて止まる音がする。
ここはまり子の家の洗面所。
まり子と母親、そしてミドリ電化の業者である。
- 業者
- 奥さん。これ駄目ですわ。中の配線がオーバーヒートで焼きちぎれてます。
- 母親
- えー困るわぁ。これないと洗濯できへんやん。
- 業者
- もう新しいのに変えたほうがええかもですねー。
- 母親
- あーそうですかぁ。
- まり子
- お母ちゃん。ちょっと待って。新しいのに変えたら、この洗濯機どうなうの?
- 母親
- えーどうなるって・・・
- 業者
- んーリサイクルされちゃうかなぁ。
- まり子
- リサイクルって何?
- 業者
- んーとね。なんて言うたらええかなぁ・・・
- まり子
- ・・・死んでまうの?
- 業者
- んー・・・
- まり子
- う、、、う、、ううわぁぁぁぁぁん!!(泣き出す)
- 母親
- ちょっとまり子。何泣いててるん?
- まり子
- リサイクルせんといて。リサイクルせんといて!!うわぁぁぁんん。
- 母親
- あんた、そんなにこの洗濯機に思い入れあったん?
- 業者
- ・・・どうします?直すこともまぁできますけど?
- まり子
- (泣き止んで)ほんまに!
- 業者
- うん。まぁちょっと割り高になるけどね。まぁ君のママがええいうなら。
- まり子
- お母ちゃん!お願い!!ウチの一生のお願い!!
- 母親
- えー。
- まり子
- お願いお願いお願いお願い!
- 母親
- ・・・もうしゃーないな。
- まり子
- うわーん!!ありがとう!おかあちゃん!!
- 業者
- そしたら、ちょっと紙書いてもらいたいんですけど。
- 母親
- あーはい。
- ドアの音。二人は洗面所を出る。
- まり子
- ・・・むふぅ。また伝説の回転見せてな?
- 洗濯機の悲痛な叫び声が聞こえた気がして・・・
- 終わり