- 深夜。老夫妻は眠っている。
玄関の引き戸が開く音がして、家に足音が忍び込んでくる。
- 婆
- おじいさん。
- 爺
- …うん?
- 婆
- どろぼー。
- 爺
- うん?
- 婆
- どろぼー。
- 泥棒は隣室を物色しているようだ。
- 爺
- どろぼー。
- 婆
- 寝ときまひょ。このまま、気づかれんように。
- 爺
- うん。
- 泥棒はお皿を割ってしまう。
- 婆
- あらら。
- 爺
- どんくさいやっちゃな。
- 泥棒は何かにぶつかってしまう。
- 爺
- あれは痛いぞ。
- 婆
- かわいそうに。
- 泥棒は咳をする。
- 爺
- わしより年寄りかもしれんな。
- 婆
- おじいさん。
- 爺
- うん?
- 婆
- そっち、行っても、よろしぃか?
- 爺
- …。
- 婆
- なんやわたしこわなってきて、
- 爺
- 静かにな。
- おばぁさんはおじぃさんのお布団に入る。
- 婆
- おじゃまします。
- 爺
- 静かにな。
- 隣室で泥棒の足音。
- 爺
- なんやちめたいテーしてるやないか。
- 婆
- そやかてまだまださむおますさかい。
- 泥棒の足音が止まる。
- 爺
- 伺っとるな。
- 婆
- 怖いわ…。キャ。
- 爺
- なんや?
- 婆
- おじぃさん足ちめたい。
- 爺
- なんちゅう声だすんや静かにせぇ。
- 婆
- おじぃさんが足寄せてきましたんやろ。
- 爺
- そんなことせーへん。
- 婆
- 意地悪やわ。コチョコチョ。
- 爺
- こら、やめ、やめ、フハフハ。
- おじぃさんとおばぁさんは年甲斐もなくはしゃぐ。
泥棒が玄関の引き戸をあけて帰ってゆく。
- 爺
- …帰ったか?
- 間
- 婆
- そうどすな。
- 間
- 婆
- ほなお邪魔しました。
- おばぁさんは自分のお布団に戻ろうとする。
- 爺
- ええがな。こっちおいで。
- 婆
- …もー嫌やわー。
- とか何とか言いながら、おばぁさんはおじぃさんのお布団にもぐり込む。
- おわり