深夜。老夫妻は眠っている。
玄関の引き戸が開く音がして、家に足音が忍び込んでくる。
おじいさん。
…うん?
どろぼー。
うん?
どろぼー。
泥棒は隣室を物色しているようだ。
どろぼー。
寝ときまひょ。このまま、気づかれんように。
うん。
泥棒はお皿を割ってしまう。
あらら。
どんくさいやっちゃな。
泥棒は何かにぶつかってしまう。
あれは痛いぞ。
かわいそうに。
泥棒は咳をする。
わしより年寄りかもしれんな。
おじいさん。
うん?
そっち、行っても、よろしぃか?
…。
なんやわたしこわなってきて、
静かにな。
おばぁさんはおじぃさんのお布団に入る。
おじゃまします。
静かにな。
隣室で泥棒の足音。
なんやちめたいテーしてるやないか。
そやかてまだまださむおますさかい。
泥棒の足音が止まる。
伺っとるな。
怖いわ…。キャ。
なんや?
おじぃさん足ちめたい。
なんちゅう声だすんや静かにせぇ。
おじぃさんが足寄せてきましたんやろ。
そんなことせーへん。
意地悪やわ。コチョコチョ。
こら、やめ、やめ、フハフハ。
おじぃさんとおばぁさんは年甲斐もなくはしゃぐ。
泥棒が玄関の引き戸をあけて帰ってゆく。
…帰ったか?
そうどすな。
ほなお邪魔しました。
おばぁさんは自分のお布団に戻ろうとする。
ええがな。こっちおいで。
…もー嫌やわー。
とか何とか言いながら、おばぁさんはおじぃさんのお布団にもぐり込む。
おわり