想像してみる。
そこは世界の屋根、白の王国、ヒマラヤ山脈。
巨人の背中をはう蟻のような小さな存在が見える。
あの人だ。
一歩また一歩と、はるかかなたの頂上を目指す。
よう。
よう。
見てみろよ、このパーティのメンツ。
雪焼けした頼もしい山男たちが、ニカリと白い歯を見せて笑った。
それは私も顔を知ってる有名な登山家たち。
皆、山に骨を埋めてしまった面々。
あっちで、意気投合しちゃってさ。
あっちでも好きなことしてんだね。
へへへ。
ねえ、あっちってどこにあんの?
あっちは、あっちさ。
だから、それってどこ?
あっちはあっち。でもこっちでもあるし、そっちでもある。
私も混ぜてよ。つまんないよアンタの居ない毎日なんか。
寂しすぎてもう疲れちゃった。
無理だよ。キミはキミのすべきことをまだ果たしてないから。
私が果たすことなんてもうないよ。死ねないから生きてるだけ。
そう・・・。
男は、そびえる巨人の頭を見上げ、もっと上の蒼い天を仰いだ。
かき氷、食べた時みたいだ。
なんだそれ。
きれいすぎて、見てると鼻の奥がキンって痛くなる。
あの人はとても情けない顔をした。
今、アンタをキンってさせたのは、ヒマラヤ?それとも空?
・・・キミ。
・・・え?
なーんて。わっ、こいつ赤くなってる。
からかうなよ、バカ。
あっちは、ずっとずっと遠くにある。でも、とてもとても近い。
わかんないってば。
ほら、おいで。
あの人は私の手をとり、軽くジャンプをした。
次の瞬間、私たちは空を飛んでいた。
再び蟻の歩みを始めた山男たちが、こちらを見あげ手を振る。
後で合流するよ。
そう言うと、ヒマラヤの山頂へひとっ飛びし、山頂でゴーゴーを踊った。
ゴーゴー!
これは私の空想。
これは私の想像する、死んだ後(のち)のアンタの姿。
だからどんなことでもできちゃう。
一緒にしようよ、いろんなこと。
だってそれは、現実じゃないから。
そんなに悲しく思わないでいいんだって。
だって。
キミがボクを想う時、こうして天に橋がかかる。
雪の布団を深々とかぶり静かにねむる巨人たちの上に大きな虹がかかった。
キミがかけた橋。
私が?
これを渡って、会いにくる。
これまでと会える場所が違うだけだから。
会える場所が違うだけ・・・。
じゃ、パーティーに合流してくる。
男は虹の橋をかけのぼり、滑り台のように滑りおり、消えた。
キンっと鼻の奥が痛み、こぼれた涙は、足元の雪を少し溶かした。
おしまい