- ジリリリリと目覚ましの音。
女はベットから起き上がる
- 女
- (小指の先についた赤い糸に気がつく)…あれ?なにこれ…
- 男N
- ある朝、彼女には見えたそうだ。運命の赤い糸が。小指の先からだらーんとたれて、糸はずっとずっとつながっていた。
- 女
- よし。いくか。
- 男N
- 彼女は旅にでた。自分の赤い糸が繋がる先を探す旅。会社は休み、万が一に供えてパスポートも持って。糸をたぐってたぐって、進んで進んで。先の先へ、どんどん進んでゆく。
- 女
- どんな人だろう…。
- 男N
- 糸は山の中に繋がっていたそうだ。
- 女
- え?もしかして山男?
- 男N
- ドキドキしながら山の中を進む。薄暗い竹やぶの中で、彼女の赤い糸は…。
- 女
- あら…。
- 男N
- 切れていた。
- 女は切れた赤い糸の先を見つけ。
- 女
- なるほど。
- 男N
- そして3年後。僕は大学の三回生。カフェでバイトをしているときに僕と彼女は始めて出合ったのだ。
- 女
- あのー。すいません。ちょっと、すいません。
- 男
- うわ!
- 女
- あ、怖がらなくていいですよ。
- 男N
- 彼女の右手には大きなハサミが握られている。僕の小指をジロジロ睨んでいる。
- 女
- あ、全然怪しい者じゃないので、すいません。
- 男N
- パントマイムのように空中の糸をつかんで、ハサミで、
- 「ジョキン」
- 女
- あは。やっぱ切れるんだ。
- 男
- なんなんですか?
- 女
- まぁまぁ。
- 男N
- そしてまた怪しい手つきで、糸と糸をチョウチョ結び。
- 女
- これでよし。
- 男
- は?
- 女
- ごめんなさいね。また来ますし。
- 男N
- はぁ…。それから何故だろう。僕は彼女のことが忘れられなくなって、でも彼女はなかなか来なくて、やっと店に来てくれたとき、質問したいことがいっぱいあって、でもそんなことより先に、僕は自分でも驚いた。彼女のことが好きになっていたのだ。
- 女
- あのー。結婚してほしんだけど…。
- 男
- あーハイハイ。結婚ね。
- 「ウェディングマーチ」
- 男
- 不思議だ。
- 女
- 何が?
- 男
- まるで運命の糸で引き寄せられたみたいだ。
- 女
- 違うわよ。
- 男
- え?
- 女
- 努力よ。
- 男N
- そして年月が流れた。僕らは幸せに暮らした。子供もできた。沢山苦労もした。でも僕らはいつも一緒で、基本仲良く暮らしてきた。何もすることがない日曜日。彼女が喋り始めた。
- 女
- あのね、ある日の朝、急に見えるようになったの。
- 男
- 何が?
- 女
- 運命の赤い糸。それでね…
- おしまい