- 窓を開ける。
太陽の光。
まだ寒い。
春は遠い。
鳥が羽ばたいた。
カーテンが揺れている。
- 僕の恋人
- おはよう。
- 僕
- おはよう。
- 僕の恋人
- 気分はどお?
- 僕
- …よく分からないな。
- 僕の恋人
- 顔色はいいみたい…良かった。今日はね、ちょっと寒いの。あ、でもね、お天気よ。
- 僕
- 寒いか…どんな感覚か、もうあまり思い出せないな。
- 僕の恋人
- あのね、すっごくいいもの持ってきたの。なにか分かる?
- 僕
- いいものか、何だろ?
- 僕の恋人
- ちょっと待ってね。
- ガサゴソ音がする。
- 僕の恋人
- はーい、イヤホーン。
- 僕
- 何?音楽?聞かせてくれるの?
- 僕の恋人
- 元旦にね、いろいろなところに行ったの。
- 僕
- 知ってる。あぁ、どこに行ったのか分からないけど。今年は側にいなかったからね。
- 僕の恋人
- 遊びに行ってたんじゃないのよ。
- 僕
- 遊びに行ったって、いいんだよ。君は、どこに行ったって、いいのに。
- 僕の恋人
- ね、聞こえる?
- 僕
- 僕の、耳に、滑り込む。
- 鳥の声
- 僕の恋人
- 2011年の、鳥の鳴き声。
- 飛行機
- 僕の恋人
- 2011年の、一番初めの、飛び立つ飛行機。
- 海の波の音
- 僕の恋人
- 2011年の、これは湘南の海ね。
- ガランガラン、初詣の風景の音
- 僕の恋人
- 2011年の、初詣。
- ジリリリリリリ目覚ましの音
- 僕の恋人
- 2011年の、目覚まし時計。
- 僕
- 新しい年を告げる、音ばかりだ。
- 僕の恋人
- あなたの部屋の目覚まし時計の音よ。
- 僕
- こんな音だったっけ…?
- 僕の恋人
- 分かる?
- 僕
- 分かるよ。
- 僕の恋人
- 分かる?
- 僕
- 分かるよ。
- 僕の恋人
- 分からないよね…
- 僕
- ちゃんと聞こえてるんだけどね。
- 僕の恋人
- 目覚まし時計が鳴りっぱなしなの。
- 僕
- もう何年鳴り続けてるかな。
- 僕の恋人
- ねぇ。
- 僕
- うん?
- 僕の恋人
- いつ起きるの?
- 僕
- いつだろうね。
- 2011年の、病院の音がする。
かすかに目覚ましのベルは鳴り続けている。
- 僕
- いつ、目が醒めるかな。
- 目覚ましのベルは鳴り続けている。
- 僕
- いつ、止められるのかな。
- 目覚ましのベルは鳴り続けている。
- 僕
- ねぇ、僕の恋人。君は、待たなくてもいいんだよ?
- カチリ、とベルは鳴り止んだ。
- 僕の恋人
- 私待ってるの。いつか、絶対、きっと。うん、待つ。いつかな。一番初めに何て言おう。そう思うとね、待つのも、楽しい。うん。きっと。
- あらゆる2011年の音が、僕の耳に滑り込み続ける。
- おしまい