- ゲームセンター
メダルの出る音
- 男
- うわっ、またメダルでた(と、半笑い)
- 女
- (半笑い)
- 男
- (メダル入れながら)コレ、メダル10枚で賭けたら、結構当たる確率も上がるのかもしれない。消費は大きいけど、結局、その方がさらに当たるっていう…
- ゲームスタート
ボタンを押す音
- 男
- よし、来い、来い…
- 女
- それ、自分の力でコントロールしてんの?
- 男
- いや、たぶん、コンピューターじゃない?
- 女
- よくそんな単純なゲームで白熱出来るよね
- メダルの出る音
- 男
- ホラ、また出た(と、笑えてくる)
- 女
- (笑えてくる)
- 男
- やってみる?
- 女
- いい
- 男
- コレ、メダル減らねえ(と、メダル入れて行く)
- 女
- ねえ、あの、お爺ちゃんお婆ちゃんが、さっきからずっとUFOキャッチャー頑張ってるんだけどさ、なかなか取れないのよ
- 男
- 何か、微笑ましいよな。最近、よく見かけない? 老夫婦
- 女
- うん。アレさあ、店員さんに言ったら、落としやすい位置まで移動させてもらえるの、知らないのかなあ。教えてあげた方がいいかなあ
- ゲームスタート
- 男
- やめといた方がいいんじゃない?
- ボタンを押す音
- 男
- 二人だけの力で取った方がやっぱ、喜びも増すわけだし
- 女
- 勿体無いよ。ホラ、また200円使ってる
- メダルの出る音
- 男
- 何か、アレかもしれないよ? 思い出のUFOキャッチャー。昔、UFOキャッチャーの腕に惚れて結婚したとか
- 女
- 昔、あんなUFOキャッチャーないでしょ
- 男
- 取り方、あまり分かってない…っぽくない? アーム止めるのも、ホラ、横から見たり全然しないし。男の意地かな
- 女
- お婆ちゃん、いい顔してるわあ
- 男
- いいねえ(と、笑みがこぼれる)
- 女
- (笑みがこぼれる)
- 男
- 一回200円の価値を越えてるね。ぬいぐるみ取れなくても
- 女
- どんな出会いだったんだろ。ゲーセン好き同士なのかなあ
- 男
- 昔は、インベーダーゲームとか? 喫茶店で出会ったのかもしれないよね
- 女
- ああ、『インベーダー、お上手ですね』って?
- 男
- 『あなたもやってみますか?』みたいな
- 女
- ああ
- 男
- それをきっかけに結婚?
- 女
- そうそう
- 男
- そんな単純な
- 女
- いや、結婚したいと思う瞬間なんて、案外単純なもんでしょ?
- 男
- そう?
- 女
- 例えば、腕の血管が浮き出ているの見て、あ、この人は守ってくれそうとか
- 男
- ああ、まあ、確かに、そうかなあ。結婚を考える“瞬間”…
- 女
- あ、分かった。あの横顔だわ。ホラ、真剣にぬいぐるみを見つめるお爺ちゃんの表情
- 男
- いいねえ
- 女
- この人は子どもにも真剣に向き合ってくれるんじゃないかしら…って
- 男
- なるほどね。コレはますます言いに行けないだろ。『取りやすい位置に置いてくれますよ』なんて。教えることの罪みたいな
- 女
- 行って来る
- 男
- え?
- 女
- あ、メダル、ちょっともらうね
- メダルを一掴み持って老夫婦の元へ行く女
それを遠くから見ている男
ゲームセンターの音が邪魔して老夫婦と女の声は聴こえない
- 男
- 「あいつは…社交的なヤツだなあ…(苦笑して)お婆ちゃん、驚いてるし。そりゃそうだよな。突然、メダルを手土産に若者がやって来たら、何なんだ!?ってなるよな。あ、でも、みんな、笑顔だなあ。おっ、お爺ちゃん、喜んでるじゃないか。やっぱ困ってたのか。あいつ、お婆ちゃんにハグしてんじゃん。ええっ? どんだけ仲良くなるの早いんだよっ。ああっ、メダル落ちてるし…もう、迷惑なヤツだなあ(と、失笑)」
- ゲームセンターの音に混じって女の笑い声が届いて来る
- 男
- 「あいつ、どんなお婆ちゃんになるんだろ…」
- 終