- 娘
- ただいま。
- 父
- うん。どうだった神社は?
- 娘
- すっげー混んでた。
- 父
- その格好で行ったのか?
- 娘
- うん。
- 父
- あ、まり子。
- 娘
- 何?
- 父
- うん、いま大丈夫か?
- 娘
- は?
- 父
- ちょっと話があるんだけど、
- 娘
- 何?
- 父
- うん、あのな、えっと、
- 娘
- 何?
- 父
- 実は年末に先生から電話があってな。まぁ色々と話したんだよ、その、
- 娘
- 何?
- 父
- 二学期に作文あったろ、あれについて先生も心配しててね、それで、
- 娘
- 作文?
- 父
- お父さんも読んでびっくりした、その、
- 娘
- あー、あれ。
- 父
- 「甘辛いモチはトッポギ」。これどういう意味だ?
- 娘
- 韓国のおモチだよ。甘辛くて美味しいの。
- 父
- いやそういうことじゃないんだ。どうしてこんな作文書いたんだ?
- 娘
- だって自由に書いていいって言ったんだよ。
- 父
- うん、わかるわかる。でもお父さんが知りたいのは、どうして「甘辛いモチはトッポギ」について書いたんだ。
- 娘
- だって書きたかったんだもん。
- 父
- …まり子。
- 娘
- 何?
- 父
- あのな、
- 娘
- 何?
- 父
- 今朝の書初めもお前なんて書いた。
- 娘
- 「変化球」
- 父
- なんでそんなこと書くんだ。
- 娘
- ダメなの?
- 父
- いやダメじゃないよ。ダメとか言ってない。ただ教えてほしんだ。どうして「変化球」なんて書いたんだ?
- 娘
- だって、書きたかったんだもん。
- 父
- …。
- 娘
- もう行っていい?初詣いくんだけど。
- 父
- なんださっき行ってきたんじゃないのか?
- 娘
- 別の友達といくの。
- 父
- その格好でいくのか?
- 娘
- …。お父さんさ。
- 父
- 何?
- 娘
- ちょっとは外にでたら。
- 外。階段を登る父。
- 父
- (拍手を打ち、祈る)今年もまり子と二人、健康に暮らせますように。
- 鐘の音。
- 父
- あ、寺か、
- 寺の境内には犬がいた。
- 父
- (犬に向かって)甘辛いモチはトッポギ…か。甘辛いモチはトッポギ…。なるほど。つまりまり子が言いたかったことは、甘辛いモチは、トッポギってことか!そうだよ!書きたいから書いたんだよ、変化球だって書きたいから書いただけなんだ!そう!そうだよ!
- 父は犬に向かって熱弁する。犬は嫌がって咆える。
- 父
- でも、問題はそういうことじゃないよな、どうして、そんなことを作文に書くかだよ、…、そうだよ、そう…。
- いつの間にか寺には娘が来ていた。
- 娘
- お父さん。
- 父
- おう。
- 娘
- 何してんの?もしかして初詣?
- 父
- 初詣は神社だろ。
- 娘
- あのさ、
- 父
- うん?
- 娘
- わたし今年からバイトしよっかな。
- 父
- …。そうか。そうか。なるほど。
- 娘
- 何が?
- 父
- つまり。…。お父さんも変わらないとな。
- 娘
- …。何それ?
- 娘は爆笑。
- 父
- そうだよ。俺も変わるぞ!
- 娘
- は?
- 父は決意する。娘は笑う。
- おわり