―蛍の光の曲、
ガアル
本日はご来館いただきまことにありがとうございます。
待って(息切れている)
―エレベーターの閉まる音
9階
ガアル
このエレベーターは上へ~…………まいりません
……は?
ガアル
下へ~……まいりません。どこへも~
ガアル
まいりません
9階、お願いします。
ガアル
…上へ~まいりません。
(なんの冗談だ!変なエレベーターガールに掴まってしまった!)あの、降ろしてもらえますか?
ガアル
降ろしてください
ガアル
降ろせと?
もう降ろして
ガアル
何を!
何が?
ガアル
パンツ?
違います(何を言ってるんだ、やばい閉店する)
ちょっと降ろして。私、エスカレーターで上まで行きますから。
ガアル
エスカレエタア?エレベエタアガアルに向かって!なんという侮辱!
なんのライバル心?いやね、まずいんですよ。明日までに、産着がいるんですよ。得意先の社長にお孫さんが生まれてね、産着を持って行きましょうってことなったんですよ。明日、部長と挨拶に行くの、産着がないと、
ガアル
ぷっ(笑)
なんですか
ガアル
今の顔、アンガールズの田中に似てる!
(かっちーん)
ガアル
あ、お客様…気に障りましたでしょうか?
触ってるよ!とにかく降ろして、いや開いていただけますか!
ガアル
胸?股?:こころ?
とびらですよ!(ぜえぜえ)
ガアル
私は!……扉を開くだけの存在ですか!?
……。ってそうでしょ、エレベエタアガールというのは上がって、下がって、上がって、下がって、開いて、閉じるためにいるんですよ!
ガアル
分かりました!
ようやく、分かっていただけましたか。
ガアル
モウイイ。アナタ、ガリガリ君ヨリ冷タイ【アジア人風に読む】
え?何風ですか?(だめだ、ここは助けを呼ぼう。ああ、あそこに非常連絡用のボタンが)
ガアル
きゃあ、何をしようというんです
そこどいて
ガアル
声出しますよ
出してください、誰か呼んでくれ!
ガアル
私、いきなり襲われたって主任さんに言いますから!
被害者は私だ
ガアル
服破きますから
えええ
ガアル
いいんですか?ガマガエルに似てる主任さんですのよ
ガマガエルに似てるのはいいです
ガアル
よくないでしょ。ガマガエルですよ!
くそっ、:落ちつけ。じゃ、聞きましょう。何か、上に行きたくない事情でもあるんですか?
ガアル
実は…昨日彼氏が爪の中に花王石鹸が挟まったって一晩中わめくんです。
は?
ガアル
もうこんな人、縁を切ったらいいのか、爪を切ったらいいのか!
もう、どこにも行けません
とりあえず、爪を切りましょう。
ガアル
私の
彼の!
ガアル
でも……
前向きにいきましょう。前を向いて歩く!
ガアル
ぎゃ、いたあ~
なんで前に歩いたんですか?
ガアル
あなたが歩けというから
あたるでしょ。扉閉まってるのに。ゴツンって、あたっちゃったでしょ?
ガアル
もうあなたの言うこと、一生ききません。
なにを!分かった。悪かった。前じゃない、上だ!上に行くんだ
ガアル
はぁ
上に、上に参りましょう。そう、上です。向上ですとも。あなたは爪を切り、縁も切る。
そしてわたしと一緒に
あなたと一緒に
上へ
上へ
そうだ
上へ
上へ
参ります~
いい調子。そしてベビー用品への扉が
―チン
開かれる!
―蛍の光、シャッターの閉まる音
その夜、私はエレベエタアガアルと一杯飲みに行った。私は部長の悪口を、エレベエタアガアルは爪に石鹸のはさまった彼氏の悪口を一晩中喚いた。あれよあれよで私と彼女は夫婦になった。
わたしの隣にいつもあのエレベエタアガアルがいる。私たちのエレベエタアは今、いったいどこへ向かっているのだろうか