- 時は戦国時代。場所は伊賀の山奥にある小屋。
ここに伊賀忍者の最長老が住んでいた。
天上よりくの一が降り立つ。
- 女
- 伊賀の蛍丸、仰せにより参上いたしました。
- 最長老
- うん。ようきた。実はな蛍丸。今日そなたを呼んだのは他でもない。ワシは幼き頃より数々の忍術を学び体得してまいった。それらのほとんどはお前に教えてきたつもりじゃ。しかしワシももう歳じゃ、めっきり足腰も立たんようになったわい。そこでじゃ、そなたにわが忍術に伝わる秘伝の奥儀を授けようと思う。
- 女
- 光栄に存じます!
- 最長老
- この秘伝はどんな巻物にもかかれておらん。ワシの頭の中にしかないものじゃ。
時間がない。さっそく伝えるぞ。
- 女
- は!
- 最長老
- まずは水渡りの術じゃ。これを極めれば水面を自在に走ることができる。一度しか申さぬぞ。
- 女
- は!
- 最長老
- なぜかと申すとワシには時間がないからじゃ。
- 女
- は!
- 最長老
- ワシが死ねばこれらの秘伝もこの世から消え去ることとなる、時間がない、ホテル丸、よいか!
- 女
- …。
- 最長老
- ようきた!実はなホテル丸。今日そなたをよんだのは他でもない。ワシは幼き日より数々の忍術を学び体得してまいった。時間がない!
- 女
- は。
- 最長老
- なぜならワシももう歳じゃ、ワシが死ねばワシが極めた数々の秘伝の忍術もこの世から消え去ることとなる。
- 女
- なるほど。
- 最長老
- なぜならそれら秘伝の忍術は本とか巻物とかに書かれてなくてワシの頭の中にのみあるからじゃ。
- 女
- はい。
- 最長老
- そのワシが死んだりボケたりでもしたら、その秘伝はどうなる?
- 女
- この世から消えてなくなります!
- 最長老
- ホタテ丸!時間がないのじゃ!なぜならワシももう歳じゃ、めっきり足腰もたたんようになった。そこでじゃまずは水渡りの術を教えよう。
- 女
- 時間がありません!
- 最長老
- そうじゃ、なぜなら、
- 女
- 長老のセリフをとって)なぜならすっかり歳をとったからです。
- 最長老
- そう、そして、
- 女
- (セリフをとって)そしてその秘伝はお師匠様の頭の中にしかないからです。
- 最長老
- そう、つまり、
- 女
- (セリフをとって)お師匠様が死んでしまうと、秘伝もまたこの世からなくなってしまうわけです。
- 最長老
- …え?
- 女
- …だって、秘伝はお師匠様の頭の中にしかないからでしょ。
- 最長老
- ……。
- 女
- お師匠様?
- 最長老
- おお!そうじゃった!
- 女
- お師匠様!
- 最長老
- どうやら本格的に時間がなくなってきたようじゃ!
- 女
- 危のうございました。
- 最長老
- 今を逃せばわが伊賀忍者秘伝の忍術はワシの代で途絶えてしまう!蛍丸、今日おぬしを呼んだのは他でもない。
- 女
- 水渡り!
- 最長老
- そう、水渡りの術を授けようと思ってな。これこそわが伊賀忍術の秘伝の技じゃ。ワシは幼い頃より数々の、
- 女
- 水渡り!
- 最長老
- そう水渡りの術を教えるのじゃ!
- 女
- はい!
- 最長老
- はい!
- 女
- はい?
- 最長老
- はい?……。おお!蛍丸。こんなところで何をしておる?
- 女
- いえ、秘伝の忍術を教えていただこうと、
- 最長老
- バカもん!お主にはまだ早いわ!
- 女
- しかし、
- 最長老
- 安心せい。秘伝はワシの頭にしっかり刻んでおるわ!ワハハハハハ!
- 女
- こうして伊賀忍者秘伝の忍術は師匠の代で途絶えた。
- おしまい